陳列を目の高さに移すと売上+8% ── フェイス22%の付け替えでは動かない、棚は場所で決まる
売りたい商品のフェイスを増やしたのに、思ったほど動かない ── 棚のなかでフェイスを付け替えても、カテゴリの売上は動きません。米国のスーパー 86 店舗で行われた実験では、カテゴリ内で 22% ぶんのフェイスを付け替えても、売上に統計的に意味のある変化はありませんでした。
棚そのものを広げても同じです。1,268 件の推定値を統合したメタ分析では、棚を 10% 増やしたときの売上の伸びは平均 1.7%にとどまりました。
動くのは置き場所です。同じ実験で、歯ブラシを上段(床から 183 センチ)から目の高さ(142 センチ)へ移したところ、売上は +8%になりました。しかも入れ替わりに上段へ移した歯磨き粉は、売上が変わりませんでした。
粗利まで見るとさらに動きます。歯ブラシは歯磨き粉の 2 倍の粗利率だったため、カテゴリ全体の利益は +6%(p<.05)。什器を買い替えず、商品を上下に動かすだけの打ち手です。
「ゴールデンゾーンは床から◯〜◯センチ」という説明はよく見かけます。ただしそこへ動かしたら実際に何%変わるのかを示した資料はほとんどありません。本記事は、その 1 点を実験の数字で埋めるための資料です。
この記事は以下のような方に読んでいただきたい内容です。
- 売りたい商品のフェイスを増やしたのに、動きが変わらない売り場責任者
- ゴールデンゾーンの高さは知っているが、効果の大きさを知らない店舗経営者
- 限られた棚を何に割り当てるか、根拠を持って決めたい方
- 棚を動かすとお客様が混乱しないかを気にしている店長
- 什器を買い替えずに売上を動かす打ち手を探している方
概要 ── 目の高さで +8%、フェイスでは動かない
売りたい商品のフェイスを 2 つから 4 つに増やしました。でも、その分ほかの商品を減らしただけで、カテゴリ全体では何も変わっていない気がして…。
その感覚は、実験の結果と一致しています。米国のスーパー 86 店舗で棚割りを組み替えた研究では、カテゴリ内でフェイスを 22% 付け替えても、売上に意味のある変化は出ませんでした。増やした分だけどこかから減らしているので、当然といえば当然なんです。
- 目の高さへ移した商品: 売上 +8%(入れ替わった商品は変化なし、カテゴリ利益 +6%)
- カテゴリ内でフェイスを 22% 付け替え: 統計的に意味のある変化なし
- 棚そのものを 10% 増やす: 売上 +1.7%(1,268 推定値のメタ分析)
- 棚割り全体を組み替えたときの平均: +3.9%(8 カテゴリ中 6 つで有意に増加、2 つは減少)
並べると、はっきりした順番が見えます。効くのは場所、次に棚の量、フェイスの付け替えはほぼ効かない。そして全体で期待できる伸びは 4% 前後で、劇的ではありません。
この記事の数字について
主データは 1994 年に米国の食品スーパー 86 店舗で行われたフィールド実験です。国内の店舗を対象にした実験ではなく、売場の環境も当時とは変わっています。数値そのものを自店の目標値にせず、「何が効いて何が効かないか」という向きと大小関係を受け取ってください。8 カテゴリのうち 2 つは売上が減っており、すべてで効いたわけでもありません。
「棚売上の 8 割」と「移して +8%」は別の数字
本題に入る前に、混同されやすい 2 つの数字を分けておきます。
- ① 構成比: その高さに置かれている商品群が、棚全体の売上のどれくらいを占めるか
- ② 伸び率: ある商品をそこへ動かしたときに、その商品がどれだけ伸びるか
- 混同すると: 「そこへ移せば売上が 8 割増える」と読んでしまう
- 実験で測られているのは ②: その値が +8%
①が大きいのは、ある意味で当たり前なんです。もともと売れる商品が、その高さに置かれているのですから。①が大きいことは、②が大きいことを意味しません。棚の実務で判断に使えるのは②のほうです。
なお「棚売上の 8〜9 割がその高さに集中する」という説明は広く見かけますが、当サイトで調べた範囲では、出典が示されている資料が見つかりませんでした。そのため本記事ではこの数字を引用していません。高さの目安そのもの(床から 75〜135 センチ程度)は実務で広く使われており、本記事もその前提を否定しません。
目の高さに移すと +8% ── 86 店舗の実験
主データは、小売研究の国際学術誌に載った 1994 年の論文です。米国の食品スーパー 86 店舗のチェーンで、実際に棚割りを組み替えて売上を測っています。
- 対象: 米国の食品スーパー 86 店舗のチェーン
- 設計: カテゴリごとに独立して実施。同じ店でも、あるカテゴリは対照の棚割り、別のカテゴリは実験の棚割り
- 動かしたもの: 歯ブラシを上段(床から 183 センチ)から目の高さ(142 センチ)へ
- 入れ替わり: 歯磨き粉が上段へ移った
- 棚の大きさ: 変えていない。位置だけを入れ替えた
183 センチというと、うちの棚だといちばん上ですね。そこから 142 センチというと、ちょうど目の高さです。それだけで結果が変わったんですか。
変わりました。歯ブラシの売上が +8%です。しかも利益はそれ以上に動いています。歯ブラシは歯磨き粉の 2 倍の粗利率だったので、カテゴリ全体の利益が +6%伸びました。
ここが実務にとって重要な点です。売上より利益のほうが大きく動く場合がある。目の高さという限られた場所に何を置くかは、粗利率で決めるべきだということになります。
入れ替わった商品は減らなかった
棚を動かすときに誰もが気にするのが、「上げた商品は伸びても、下げた商品が落ちるのでは」という点です。この実験では落ちませんでした。
- 上段 → 目の高さ に移した歯ブラシ: +8%
- 目の高さ → 上段 に移した歯磨き粉: 変化なし
- 研究者の説明: 歯磨き粉はあらかじめ買うと決めて来店される商品なので、上段に移っても探して買われる
- 裏を返すと: その場で目に入って買われる商品を上段へ動かすと、落ちる可能性がある
つまり入れ替える相手の選び方が肝心です。「これを買いに来た」と決まっている商品なら、多少不便な場所に移しても客は探してくれます。逆にふと目に入って買われている商品を上げてしまうと、その分が消えます。
自店で見分ける目安は簡単です。買物リストに書かれるような商品か、その場で決まる商品か。前者を上段へ、後者を目の高さへ。レジ前やカウンター周りで同じ考え方を使う方法は 「レジ前・カウンター・棚の客単価設計 ── 視覚配置で+14%(実証)」 にまとめています。
フェイスを 22% 付け替えても動かない
同じ実験は、フェイス数の配分を店ごとに最適化するという試みも行っています。都市型の店と郊外型の店で、売れ方に合わせてフェイスを配分し直しました。
- 付け替えの規模: カテゴリによって 17〜46% ぶんのフェイスを動かした
- 食器洗剤では: 22% ぶん付け替えても、売上に統計的に意味のある変化はなかった
- 著者の記述: スペースの変化と売上の変化のあいだに、カテゴリ単位では明確な対応が見られない
- なぜか: 棚割り全体の大きさは変えていない。ある商品にフェイスを 1 つ足すたび、別の商品から 1 つ取っている
言われてみれば、うちがやっているのもまさにこれです。棚は増えないので、増やした分はどこかから取っている…。
そうなんです。カテゴリ全体で見れば足し引きゼロになりやすい。ただしフェイスが無意味だという話ではありません。欠品を出さないだけのフェイスは必要です。そこを確保したうえで、次に手を入れるべきは数ではなく場所、という順序になります。
フェイスを増やす作業には人手がかかります。同じ人手を「上下に動かす」作業に向けたほうが、結果は大きくなる可能性が高いということです。
棚を 10% 増やしても売上は 1.7%
では、棚そのものを広げたらどうなるのか。これについては 1,268 件の推定値を統合したメタ分析があります。
- 平均: 棚を 10% 増やすと売上 +1.7%(弾力性 0.17)
- 日用品: 最も小さい
- 定番品: 次に小さい
- 衝動買いされる商品: 最も大きい
棚の取り合いをするときに、この数字を持っておくと話が変わります。10% 広げて 1.7%。日用品の棚を広げるのは、いちばん効きにくい使い方です。限られた棚を広げるなら、その場で目に入って買われる商品に割くほうが理にかなっています。
試食や実演のように、その場で買う理由をつくる施策とも相性がよい考え方です。配布の動線と人員配置は 「試食配布で当日売上+475%・同日購入率33% ── 動線・人員配置・1日500枚の段取り」 で扱っています。
「0.17」の読み方
これは小さな変化に対する比率です。棚を倍にすれば 17% 増える、という意味ではありません。また1,268 件の推定値の平均であって、自店の値ではありません。カテゴリ・業態・国によってばらつきます。「棚を広げても、思ったほどは動かない」という目安として使ってください。
なぜ場所が効くのか ── 上段と中央が視線を集める
ここまでの結果に理由を与えるのが、視線を計測した 2009 年の研究です。マーケティングの国際学術誌に載っています。
- フェイス数が評価に与える影響は、「視線を集めること」によって完全に説明される
- つまりフェイスが増える → 見られる → 評価が上がる。それ以外の経路はない
- 棚の上段、または中央寄りに置かれた商品は視線を集め、評価も高い
- 効果が大きいのは、その商品をよく使う客と シェアの低い商品
「フェイスの効果は視線で説明しきれる」というのは、逆に言うと…。
そこが本質です。すでに見られている場所にある商品なら、フェイスを増やしても伸びしろは小さいということになります。見られていない場所にあるものを、見られる場所へ動かすほうが効く。しかも売れていない商品ほど効果が大きいと報告されています。
売れている商品をさらに目立たせるより、粗利が高いのに見られていない商品を動かす。これが 2 つの研究から出てくる、共通の結論です。
この研究が測っていないもの
視線計測の研究が測ったのは 視線と評価であって、売上そのものではありません。売上の変化は前述の 86 店舗の実験(+8%)で補っています。また「上段」はこの研究の棚設定における相対的な位置であり、床から何センチかを示したものではありません。
棚割り全体で期待できるのは +3.9%
最後に、期待値を現実的なところに置いておきます。棚割りを店ごとに組み替えたときの平均的な伸びです。
- 6 カテゴリ: 売上・利益ともに増加(いずれも統計的に有意)
- 2 カテゴリ(缶詰のシーフードと食器洗剤): 減少(統計的に有意ではない)
- 平均: +3.9%
- 著者の試算: 86 店舗のチェーンで、週 2,000 ドルを売るカテゴリが 3% 伸びれば、粗利率 25% として年間 6.7 万ドル超の増益
正直にお伝えすると、棚をいじって売上が倍になることはありません。数%です。ただ著者が書いているとおり、これは値引きを伴わない、粗利をそのまま乗せた売上で、固定費は増えません。だから見た目の数字より効きます。
そして 8 つのうち 2 つは減っています。やってみて戻す前提で始めるのが正しい姿勢です。変えたら数える。数えて悪ければ戻す。変えたことを行動として記録する考え方は 「視覚的手がかりで客単価+14% ── レジ周り・カウンター・棚で月間+18万円」 でも扱っています。
今ある棚でできる 5 つの手順
ここまでを、什器を買い替えずにできる作業に落とします。
- 売上ではなく 粗利率で並べる。歯ブラシの例では粗利率が 2 倍だったため利益が大きく動いた
- 上位のうち、いま上段か下段に置かれているものに印をつける
- すでに目の高さにあるものは対象外。伸びしろが小さい
- 実験で上段へ移して落ちなかったのは、あらかじめ買うと決めて来店される商品
- 目安は 買物リストに書かれるかどうか
- その場で目に入って買われている商品を上段へ動かさない。その分が消える
- 動かすのは 高さだけ。フェイス数は変えない
- フェイスの付け替えは 22% 動かしても結果が出ていない。人手を使う価値が低い
- ただし 欠品を出さないだけのフェイスは確保する。ここは削らない
- 棚を 10% 広げても売上は +1.7%。日用品ではいちばん効きにくい
- 広げる価値があるのは その場で目に入って買われる商品
- 広げる余地がないなら、④ は飛ばして ③ に人手を回す
- 動かした商品の販売数と 入れ替えた相手の販売数。この 2 つだけでよい
- 期待値は 数%。変わらない、あるいは減るカテゴリもある
- 減ったら戻す。8 カテゴリ中 2 つは減っていた
- 比べる期間は 前後それぞれ 4 週間を目安に。曜日の偏りを消す
見せ方を変えるだけで結果が動くという考え方は、売り場に限りません。待ち時間でも同じことが起きます ── 「待ち時間を見せると品質評価+22.2%・提供時間-19.2% ── 短くするより効く、長さ別の伝え方3段階」。
30 日の進め方 ── 選ぶ・動かす・数える
- ① 1 カテゴリだけ選ぶ: 全売場を一度に変えない。結果が読めなくなる
- ② 粗利率で並べる: 売上順ではなく粗利率順
- ③ いまの高さを記録する: 写真 1 枚でよい。戻すときに必要
- ④ 前 4 週間の販売数を控える: 動かす商品と入れ替える相手の 2 つだけ
- ⑤ 高さだけを入れ替える: フェイス数は触らない
- ⑥ 入れ替える相手を選び直す: 目当てで買われる商品かどうかを最終確認する
- ⑦ 欠品が出ないかを最初の 3 日は見る: フェイスが足りていない商品を上げると、すぐ空く
- ⑧ 客が探していないかを見る: 実験では気づいた客は 1 割だったが、常連の多い店では違う可能性がある
- ⑨ 後 4 週間の販売数を数える: 前と同じ 2 つの数字だけ
- ⑩ 粗利で見る: 売上が横ばいでも利益が増えていることがある(実験では売上 +8% に対し利益 +6%)
- ⑪ 減っていたら戻す: 記録した写真のとおりに戻す。戻せることが試せる条件
- ⑫ 効いたら次のカテゴリへ: 1 カテゴリずつ。まとめてやらない
⑩ が見落とされがちです。粗利の高い商品を上げた場合、売上の伸びより利益の伸びのほうが大きくなることがあります。売上だけを見ていると「効かなかった」と判断してしまいます。
参考研究・論点
- ザビエル・ドレーズ、スティーブン・ホック、メアリー・パーク(1994 年発表) ── 米国の食品スーパー 86 店舗のチェーンでのフィールド実験。歯ブラシを上段(床から 183 センチ)から目の高さ(142 センチ)へ移すと売上 +8%、入れ替わりに上段へ移った歯磨き粉は変化なし、カテゴリ利益は +6%(p<.05)。カテゴリ内でフェイスを 22% 付け替えても売上に有意な変化はなく、棚割りを店ごとに組み替えた 8 カテゴリの平均は +3.9%(6 カテゴリで有意に増加、2 カテゴリは有意でない減少)
- マルティン・アイゼント(2014 年発表) ── 棚スペース弾力性の推定値 1,268 件を統合したメタ分析。平均は 0.17 で、棚を 10% 増やすと売上は 1.7% 増える。効き方は日用品で最も小さく、定番品、衝動買いされる商品の順に大きくなる
- ピエール・シャンドン、ウェズリー・ハッチンソン、エリック・ブラッドロー、スコット・ヤング(2009 年発表) ── 視線計測。フェイス数が評価に与える影響は「視線を集めること」によって完全に説明され、棚の上段や中央寄りに置かれた商品は視線を集めて評価も高い。効果はその商品をよく使う客とシェアの低い商品で大きい
高さの次は、横方向の並び順
本記事は高さを扱いましたが、同じ実験は横方向の並び順も測っています。柔軟剤を液体洗剤と粉末洗剤のあいだへ移したところ、カテゴリ売上・利益がともに +5%(p<.01)。しかも3 つの品群すべてが伸び、主力は食われませんでした。詳しくは 「関連品を主力の間に挟むと売上+5% ── 主力は減らず3品群すべて伸びた、挟む位置と幅」 をご参照ください。
同じ実験には、下がった結果もある
本記事では上がった結果を扱いましたが、同じ実験で売上が下がった並べ替えもあります。スープの味を順番に整理して -6%、シリアルをメーカー別からタイプ別に変えて -5%。しかも下がったまま 6 か月以上続きました。並べ替えは上にも下にも数% 動かします。詳しくは 「探しやすく並べ替えたら売上-6% ── 気づいた客は10%、下がったまま半年続いた」 をご参照ください。
フェイスの「最低限」は、欠品で決まる
本記事ではフェイスを付け替えてもカテゴリ売上は動かないと書きましたが、欠品を出さない最低限のフェイスは別です。欠品に当たった客の 55% はその店で買わず、31% は他店へ行きます。1 日に 2 回以上空く品目だけは、フェイスを増やす価値があります。詳しくは 「欠品に当たった客の55%は買わずに帰る ── 31%が他店へ、原因の25%は品出しで直る」 をご参照ください。
まとめ
- 目の高さに移すと売上 +8%。上段(183 センチ)から目の高さ(142 センチ)へ動かした実験結果
- 入れ替わりに上段へ移した商品は減らなかった。目当てを決めて買われる商品だったため
- 粗利率が 2 倍の商品を上げたため、売上 +8% に対しカテゴリ利益は +6%。売上より利益が動く
- カテゴリ内でフェイスを 22% 付け替えても、売上は動かなかった。増やした分どこかから減らしているため
- 棚を 10% 広げても売上は +1.7%(1,268 推定値のメタ分析)。日用品で最も効きにくい
- 広げる価値があるのは その場で目に入って買われる商品
- 視線計測では 上段と中央が視線を集め、フェイスの効果は視線で完全に説明できる
- だから すでに見られている商品のフェイスを増やすより、見られていない商品を動かす
- 効果が大きいのはシェアの低い商品。売れている商品をさらに目立たせても伸びしろは小さい
- 棚割り全体で期待できるのは +3.9%。8 カテゴリ中 2 つは減っていた。戻せる形で始める
- 「棚売上の 8〜9 割」は構成比であって、動かしたときの伸び率ではない
今週できることは 1 つだけです。粗利率が高いのに上段か下段にある商品を 1 つ選び、目当てで買われる商品と高さを入れ替えること。フェイスは触らず、写真を 1 枚撮ってから動かしてください。4 週間後に販売数を数えて、減っていたら戻せば済みます。
※ 主データは 1994 年に米国の食品スーパー 86 店舗のチェーンで行われたフィールド実験です。国内の店舗を対象にしたものではなく、売場の環境も当時とは異なります。8 カテゴリのうち 2 つは売上が減っており(統計的に有意ではない)、すべてのカテゴリで効いたわけではありません。数値そのものを自店の目標値とせず、「何が効いて何が効かないか」という向きと大小関係として受け取ってください。棚スペースの弾力性 0.17 は 1,268 件の推定値の平均であり、カテゴリ・業態・国によってばらつきます。また小さな変化に対する比率であり、棚を倍にすれば 17% 増えるという意味ではありません。視線計測の研究が測ったのは視線と評価であって、売上ではありません。「棚売上の 8〜9 割がゴールデンゾーンに集中する」という説明については、当サイトで調べた範囲では出典が示されている資料が見つからなかったため、本記事では引用していません。自店では、動かした商品と入れ替えた相手の販売数を前後 4 週間で比べながら確かめてください。
よくある質問
「棚の売上の 8〜9 割はゴールデンゾーン」と聞きますが、そこに移せば売上が 8 割増えるのですか?
別の数字です。「8〜9 割」は、その高さに置かれている商品群が棚全体の売上のどれくらいを占めるかという構成比の話で、ある商品をそこへ動かしたときにどれだけ伸びるかという話ではありません。米国のスーパー 86 店舗で行われた実験では、歯ブラシを上段から目の高さへ移したときの伸びは +8% でした。
構成比が大きいことと、動かしたときの伸びが大きいことは別です。なお「8〜9 割」という数字は、当サイトで確認した範囲では出典が示されている資料が見つかりませんでした。本記事では引用していません。
フェイス数を増やせば売上は増えますか?
増えますが、期待されるほどではありません。1,268 件の推定値を統合したメタ分析では、棚のスペースを 10% 増やしたときの売上の増加は平均 1.7%でした。しかも効き方は商品の性格で変わり、日用品で最も小さく、衝動買いされる商品で最も大きくなります。
さらに注意が必要なのは、多くの店で行われているのは「棚を増やす」ではなく「同じ棚のなかでフェイスを付け替える」ことです。米国スーパーの実験では、カテゴリ内で 22% ぶんのフェイスを付け替えても、カテゴリの売上に統計的に意味のある変化はありませんでした。増やす相手から同じだけ減らしているためです。
目の高さに移すと、そこにあった商品の売上は落ちませんか?
この実験では落ちませんでした。歯ブラシを上段から目の高さへ移し、入れ替わりに歯磨き粉を上段へ移したところ、歯ブラシは +8%、歯磨き粉は変化なしという結果でした。研究者は、歯磨き粉はあらかじめ買うと決めて来店される商品なので、上段に移っても探して買われる、と説明しています。
つまり入れ替える相手として選ぶべきなのは、目当てを決めて買われる商品です。逆に、その場で目に入って買われる商品を上段へ動かすと、落ちる可能性があります。
どの商品を目の高さに上げるべきですか?
粗利の高い商品と、まだ売れていない商品です。同じ実験で、歯ブラシは歯磨き粉の 2 倍の粗利率だったため、売上が +8% だったのに対しカテゴリ全体の利益は +6% 伸びました。売上より利益のほうが動いたことになります。
また視線を計測した別の研究では、棚の位置が効く度合いはシェアの低いブランドほど大きいと報告されています。すでによく売れている商品を上げても伸びしろは小さく、粗利が高いのに下段や上段に置かれている商品を上げるほうが投資対効果は高くなります。
棚を動かすと客が混乱しませんか?
同じ実験の別の場面で、200 名の買物客に店頭で聞き取りをしたところ、6 か月前に並べ替えたことに気づいていた人は10% にとどまりました。対照店の棚も実験店の棚も、どちらも「分かりにくい」と答えています。つまり並べ替えそのものが混乱を生むというより、もともと客は棚の並びを覚えていないということです。
ただし、これは実験を行った米国のスーパーでの結果です。常連の比率が高い小さな店では事情が違う可能性があるため、変えたあとしばらくは「探している様子の客がいないか」を見ておいてください。
- ザビエル・ドレーズ、スティーブン・ホック、メアリー・パーク(1994 年発表)「棚の管理と空間弾力性」 — 米国の食品スーパー 86 店舗のチェーンで、カテゴリごとに独立して棚割りを組み替えたフィールド実験。歯ブラシを上段(床から 183 センチ)から目の高さ(142 センチ)へ移したところ売上は +8%、入れ替わりに上段へ移った歯磨き粉は変化なし。歯ブラシは歯磨き粉の 2 倍の粗利率だったため、カテゴリ全体の利益は +6% 伸びた(p<.05)。一方、カテゴリ内でフェイスを付け替える施策では、食器洗剤で 22% ぶんを動かしても売上に有意な変化はなく、著者は「スペースの変化と売上の変化のあいだに、カテゴリ単位では明確な対応が見られない」と述べている。棚割りを店ごとに組み替えた 8 カテゴリの平均は +3.9%(6 カテゴリで有意に増加、2 カテゴリは有意でない減少)。また 200 名への店頭聞き取りでは、6 か月前の並べ替えに気づいていた客は10% だった。小売研究の国際学術誌
- マルティン・アイゼント(2014 年発表)「棚スペース弾力性のメタ分析」 — 棚に割り当てたスペースと売上の関係について、1,268 件の推定値を統合したメタ分析。平均の弾力性は 0.17 で、棚を 10% 増やすと売上は 1.7% 増える計算になる。効き方は商品の性格によって異なり、日用品で最も小さく、定番品がそれに次ぎ、衝動買いされる商品で最も大きい。小売研究の国際学術誌
- ピエール・シャンドン、ウェズリー・ハッチンソン、エリック・ブラッドロー、スコット・ヤング(2009 年発表)「店内マーケティングは効くのか ── 棚のフェイス数と位置がブランドへの注目と評価に与える影響」 — 視線計測を用い、棚に並べた商品への視線と評価を測定。フェイス数が評価に与える影響は「視線を集めること」によって完全に説明され、それ以外の経路は確認されなかった。棚の上段や中央寄りに置かれた商品は視線を集め、評価も高い。効果はその商品をよく使う客、シェアの低い商品、およびブランドと価格を天秤にかける客で大きかった。マーケティング研究の国際学術誌
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明日からの現場が変わります。