仕事を忘れられる人ほど消耗が低い 相関.30〜.36 ── ただし創造性は逆に下がった
「家に帰っても仕事のことを考えてしまう」という悩みは、たいてい本人の性格の問題として語られます。真面目すぎる、思考の癖、気持ちの切り替えが下手。
ところが 86 論文・38,124 名を統合したメタ分析では、年齢とも性別とも関係がありませんでした。
関係していたのは 仕事の側の負担と資源のほうです。そして 勤務後に仕事を忘れられている人ほど、消耗が少なく睡眠もよい(平均相関 .30 〜 .36)。
ただし 自発的な協力行動と創造性は、逆に下がっていました。切り替えれば切り替えるほどよい、という話ではありません。
当サイトでは 勤務中の休憩ルーティンや 勤務間インターバルの長さを扱ってきました。本記事は 空いた時間の「中身」の話です。
この記事は以下のような方に読んでいただきたい内容です。
- スタッフが疲れを持ち越しているように見える店舗経営者
- 休ませているのに回復していないと感じる店長
- クレーム対応の翌日に元気がないスタッフを見ている方
- 切り替えを本人の努力に任せてきた方
- 職場の側でできることを知りたい方
概要 ── 切り替えられないのは性格のせいではない
休みは取らせているんですが、明けても疲れが抜けていないスタッフがいて。真面目な子ほどそうなんです。
その見立ては 半分だけ当たっています。勤務後に仕事を頭から離せているかどうかを 86 論文で統合した研究があるのですが、妨げている要因の中心は、本人ではなく仕事の側にありました。
- 心の健康との関係: 平均相関 .30 〜 .36(消耗・生活満足・良好感・睡眠)
- 体の不調との関係: 平均相関 −.23
- その日の状態との関係: 平均相関 .28 〜 .42(疲労・気分・回復した感じ)
- 逆に下がったもの: 自発的な協力行動と創造性
- 関係が確認できなかったもの: 生理的なストレス指標・仕事への動機づけ
- 感情的な負担との関係: −.21(95% 信頼区間 −.27 〜 −.14)
- 年齢・性別との関係: なし
この記事の数字について
主データは 心理学の国際学術誌に載ったメタ分析で、原文を取得して数値を照合しています。
ただし ここに出てくるのはすべて相関であって、因果ではありません。 統合された研究のほとんどは、ある時点で本人に質問した横断調査です。
相関の目安は .10 が小さい / .30 が中くらい / .50 が大きいです。
86 論文・38,124 名を統合したメタ分析
この研究は ドイツの連邦労働安全衛生研究所によるものです。
- 86 本の論文
- 91 の独立したサンプル
- 38,124 名の働き手
- 結果側の集計は 75 研究・29,587 名・319 の効果量
- 論文の言い方では 勤務時間外に、仕事のことを頭から離せている状態
- 体が休んでいるかではなく、頭が仕事から離れているか
- 休みを取っていても、ずっと考えていたら距離は取れていない
ここが大事なところです。シフトを空けることと、頭を休ませることは別なんです。勤務間を 11 時間空けるという話は入れ物の話で、今日はその中身の話になります。
忘れられている人ほど消耗が少なく、睡眠もよい
まず 心と体の健康との関係です。
- 平均相関は .30 〜 .36 の範囲
- 内訳は 消耗が少ない / 生活満足が高い / 良好感が高い / 睡眠がよいの 4 つ
- 相関の目安では .30 が中くらいにあたる
- ヨーロッパ(18 研究): −.38(95% 信頼区間 −.44 〜 −.32)
- 米国・カナダ(3 研究): −.27(−.42 〜 −.09)
- その他(2 研究): −.31(−.47 〜 −.12)
- → ヨーロッパ以外は研究数が少ないので、そこは差し引いて読む
- 平均相関 −.23(身体的な不快感が少ない)
- 心の健康より 効果は小さい
睡眠が入っているのは実務的に大きいところです。寝る前に今日のクレームを思い出している状態では、時間を確保しても眠りの質は戻りません。
その日の疲れと気分にも差が出ていた
長い目で見た健康だけでなく、その時点の状態とも関係がありました。
- 平均相関は .28 〜 .42 の範囲
- 内訳は 疲労が少ない / 気分がよい / 回復した感じが強いの 3 つ
- 本来業務の成績とも、小さいから中くらいの正の関係があった
翌日のパフォーマンスにも関係するということですか。
そう読めます。本来やるべき業務の成績とは正の関係でした。ただし次の章で、そう単純ではない結果も出てきます。
効かなかった 2 つ ── 生理指標とやる気
ここからが、ほかではあまり書かれていない部分です。
- 生理的なストレス指標 ── 平均効果は有意でなかった。 ただし 扱った研究が 3 本しかない
- 仕事への動機づけ ── 有意な平均相関がなかった
「休めばやる気が戻る」とよく言われますが、この研究ではその関係が確認できていません。疲れが取れることと、やる気が出ることは別だということになります。
やる気そのものを上げる話は、店長の声かけ 10 フレーズのほうで扱っています。休ませることと、動機づけることは、別の手立てが要ります。
逆に下がったもの ── 自発的な協力と創造性
さらに 「負」の関係が出たものが 2 つあります。
- 文脈的業績(頼まれていない協力行動)
- 創造性
- → 勤務後に仕事を完全に追い出している人ほど、この 2 つは少なくなる傾向
切り替えたほうがいい、で終わりではないんですね。
そこがこの研究の誠実なところです。一律に「オンオフを切り替えましょう」と言う記事は、この結果に触れていません。狙いは「ゼロにする」ことではなく、「否定的な反芻を減らす」ことだと考えてください。
実際この研究では、心理的距離をどう測るかで結果が動いています。否定的な内容の考えを測ると相関 .41、中立的に測ると .22、肯定的な内容だと .14。問題なのは「考えること」そのものではなく、「嫌なことを引きずること」のほうだと読めます。
妨げているのは仕事の側だった
この記事でいちばん実務に効くのがここです。何が心理的距離を妨げるのかを調べた部分です。
- 仕事の負担: 負の関係(負担が大きいほど切り離せない)
- 仕事の資源: 正の関係(支援や裁量があるほど切り離せる)
- どちらも 絶対値 .10 〜 .25 の範囲
- → 負担のほうが、資源よりも関連が強い(統計的に確認された差)
- 年齢: 関係なし
- 性別: 関係なし
- 否定的な感情を抱きやすい傾向: 小さい負の関係
- 仕事に過剰に打ち込む傾向: 中くらいの負の関係
- 勤務時間外の仕事関連の活動: 中くらいの負の関係
年齢とも性別とも関係がなかったのは重要です。「若い子は切り替えが下手」「真面目な子はそうなる」という見立ては、少なくともこの規模のデータでは支持されません。先に見るべきは負担のほうです。
なお仕事の資源のうちでは、社会的な支援のほうが、仕事の裁量よりも強く関連していました。裁量を増やすより先に、話を聞ける相手がいるかどうかということになります。
感情を使う仕事ほど切り離せない
負担の中身をさらに分けた結果が、接客業にそのまま効いてきます。
- 感情的な負担: −.21(95% 信頼区間 −.27 〜 −.14)
- 量的な負担のほうが、役割が曖昧といったストレッサーより強く関連
- 感情的な負担のほうも、役割ストレッサーより強く関連(統計的に確認された差)
クレーム対応をした日の翌日、明らかに元気がないのはこれでしょうか。
そう読める結果です。接客は、客の感情に合わせて自分の表情や声を作る仕事です。そのぶん勤務後に引きずりやすい構造があることになります。本人の弱さではありません。
その場での対応の型は カスハラ対応マニュアルにまとめてあります。ただし、その場をしのげても持ち帰りは残ります。対応の型と、持ち帰りを減らす設計は別に要るということです。
この研究の性質と限界
- 86 論文・91 サンプル・38,124 名を統合している
- 心の健康・体の不調・その日の状態・本来業務の成績と正の関係
- 妨げる要因として、仕事の負担のほうが資源より強いことを統計的に確認
- 効果がなかったもの・逆だったものを隠さず報告している
- ほとんどが横断調査で、相関であって因果ではない
- 効果量のばらつきが中程度から大きい(多くの関係で異質性の指標が 67% 超)
- 生理的なストレス指標を扱った研究は 3 本のみ
- 縦断研究が少なく、研究デザインによる差の分析が制限された
- 測り方で結果が動く(否定的な内容 .41 / 中立 .22 / 肯定的 .14)
- 自己報告が中心
自店に持ち込めるのは 数値そのものではありません。 ①切り替えを妨げているのは仕事の側かもしれない ②感情を使う日ほど引きずる ③ゼロにするのが目的ではない。 この 3 つの見方のほうです。
店長ができる 5 つの手順
- 研究では 勤務時間外の仕事関連の活動が、中くらいの負の関係だった
- 連絡の要否を、送る側が判断する(受け取る側に任せない)
- 「見なくていい」と言っても、通知が来れば頭は戻る
- クレーム対応・理不尽な要求・長時間の接客があった日に印を付ける
- 研究では 感情的な負担と切り離しにくさの相関が −.21
- その日のシフトの終わり方を変える対象にする
- 5 分でよいので、その日の未処理を書き出して閉じる
- 持ち帰る理由の多くは、片付いていない感覚
- 研究が示すのは 時間の長さではなく、頭が離れているか
- 仕事の資源のうち 社会的な支援のほうが、裁量より強く関連していた
- 嫌なことがあった日に、ひとこと聞く相手を決めておく
- 裁量を増やすより先に、これ
- 完全に切り離すと、自発的な協力行動と創造性は下がっていた
- 狙いは 「考えないこと」ではなく「嫌なことを引きずらないこと」
- 否定的な内容で測ったときの相関が .41 といちばん強かった
まとめ
- 勤務後に仕事を頭から離せている人ほど、 消耗が少なく、生活満足・良好感・睡眠がよい(平均相関 .30 〜 .36)
- 体の不調とは −.23、その日の疲労・気分・回復感とは .28 〜 .42
- 生理的なストレス指標とは有意な関係がなかった(研究が 3 本のみ)。 やる気とも有意な関係がなかった
- 自発的な協力行動と創造性は、逆に下がっていた。 切り替えるほどよいという話ではない
- 妨げているのは 仕事の側。 負担のほうが資源より強く関連し、年齢とも性別とも関係がなかった
- 感情的な負担との相関は −.21。 感情を使う仕事ほど、勤務後に切り離しにくい
- 仕事の資源では 社会的な支援のほうが、裁量より強く関連
- 測り方で結果が動く ── 否定的な内容 .41 / 中立 .22 / 肯定的 .14。 問題は「考えること」ではなく「引きずること」
- すべて相関であって因果ではない。ほとんどが横断調査
- 手順は ①勤務後の連絡を減らす ②感情的な負担が大きかった日を記録する ③終業前に終わらせる時間を取る ④話を聞ける相手を用意する ⑤ゼロを目指さない
今週できることは 1 つだけです。先週スタッフに送った勤務時間外の連絡を数えて、そのうち翌日でよかったものに印を付けてみること。減らせる連絡が 1 件でもあれば、そこが最初の一歩です。切り替え方を本人に教えるのは、そのあとで構いません。
※ 主データは心理学の国際学術誌に掲載されたメタ分析で、原文を取得して数値を照合しています。86 本の論文・91 の独立サンプル・38,124 名を統合したものです。ただし本記事に出てくる数値はすべて相関であり、因果関係を示すものではありません。統合された研究のほとんどは、ある時点で本人に質問した横断調査です。また効果量のばらつきが中程度から大きく、多くの関係で異質性の指標が 67% を超えています。生理的なストレス指標との関係を扱った研究は 3 本しかなく、平均効果は有意ではありませんでした。縦断研究が少ないため、研究デザインによる差の分析は制限されています。心理的距離をどのように測るかによっても結果が動き、否定的な内容の考えを測ると相関 .41、中立的に測ると .22、肯定的な内容だと .14 という差が報告されています。燃え尽きの消耗との関係を地域別に見た値のうち、米国・カナダは 3 研究、その他の地域は 2 研究と少数です。相関の大きさの目安は .10 が小さい、.30 が中くらい、.50 が大きいとされています。自店では、勤務時間外の連絡の件数と、感情的な負担が大きかった日を記録するところから確かめてください。
よくある質問
勤務後に仕事のことを考えてしまうのは本人の問題ですか
仕事の側の要因のほうが強く関連していました。86 論文・38,124 名を統合したメタ分析では、勤務後に仕事を頭から離せている度合いに対し、仕事の負担が負の関係、仕事の資源が正の関係を示し、どちらも絶対値で .10 から .25 の範囲でした。そして仕事の負担のほうが仕事の資源より関連が強いことが統計的に確かめられています。いっぽう年齢と性別は関係がありませんでした。性格の要因では、否定的な感情を抱きやすい傾向が小さい負の関係、仕事に過剰に打ち込む傾向が中くらいの負の関係でしたが、仕事の負担のほうが先に来ます。本人の気の持ちようの問題として片付けないでください。
接客の仕事は特に切り替えにくいのですか
そう読める結果が出ています。このメタ分析では、感情的な負担と心理的距離の相関が −.21で、95% 信頼区間は −.27 から −.14 でした。つまり感情を使う仕事ほど、勤務後に頭を切り離しにくくなります。しかも感情的な負担のほうが、役割が曖昧といったストレッサーよりも強く関連していることが統計的に確かめられました。接客は、客の感情に合わせて自分の表情や声を作る仕事です。そのぶん勤務後に引きずりやすい構造があることになります。ただしこれは相関であって因果ではありません。
切り替えられると具体的に何がよくなりますか
心と体の両方で差が出ていました。心の健康については、消耗が少ない、生活満足が高い、良好感が高い、睡眠がよいという 4 つで、平均相関が .30 から .36 の範囲でした。これは中くらいの大きさにあたります。体については、身体的な不快感が少ないという関係が平均相関 −.23 で、こちらは小さい効果です。その日その時点の状態では、疲労が少ない、気分がよい、回復した感じが強いという 3 つで、平均相関が .28 から .42 の範囲でした。本来業務の成績とも、小さいから中くらいの正の関係がありました。
切り替えすぎるとまずいことはありますか
あります。このメタ分析では、心理的距離と自発的な協力行動の相関、そして創造性との相関が、いずれも統計的に有意な「負」でした。つまり勤務後に仕事を完全に頭から追い出している人ほど、頼まれていない手伝いをしたり、新しいやり方を思いついたりすることは少なくなる傾向があります。オンとオフを切り替えるのは一律によいこと、という書かれ方をよく見かけますが、この研究はそう単純ではないことを示しています。また生理的なストレス指標との関係は有意でなく、仕事への動機づけとも有意な関係がありませんでした。
この数字をそのまま自店に当てはめてよいですか
当てはめないでください。理由は 4 つあります。1 つ目は、これが相関であって因果ではないこと。統合された研究のほとんどは、ある時点で本人に質問した横断調査です。2 つ目は、効果量のばらつきが中程度から大きく、多くの関係で異質性の指標が 67% を超えていること。3 つ目は、生理的なストレス指標を扱った研究が 3 本しかないこと。4 つ目は、心理的距離をどう測るかで結果が動くことです。否定的な内容の考えを測ると相関が .41、中立的に測ると .22、肯定的な内容だと .14 と差がありました。自店で使えるのは数値そのものではなく、切り替えを妨げているのは仕事の側かもしれないという見方のほうです。
- ヨハネス・ヴェンチェ、アンドレア・ローマン=ハイスラー(2017 年発表)「仕事からの心理的距離の先行要因と結果に関するメタ分析」心理学の国際学術誌 7:2072 — 本記事の主データ。ドイツ連邦労働安全衛生研究所による研究で、86 本の論文・91 の独立サンプル・38,124 名の働き手を統合したメタ分析。結果側の集計は 75 研究・29,587 名・319 の効果量にもとづく。勤務時間外に仕事を頭から離せている度合いは、心の健康(消耗が少ない・生活満足が高い・良好感が高い・睡眠がよい)と平均相関 .30 から .36 の中くらいの正の関係、身体的な不快感とは平均相関 −.23 の小さい関係、その日その時点の状態(疲労・気分・回復した感じ)とは .28 から .42 の関係を示した。本来業務の成績とも小さいから中くらいの正の関係があった。いっぽう生理的なストレス指標との平均効果は有意でなく(扱った研究は 3 本のみ)、仕事への動機づけとも有意な関係がなかった。文脈的業績(頼まれていない協力行動)と創造性は、有意だが負の関係だった。妨げる要因では、仕事の負担が負、仕事の資源が正でいずれも絶対値 .10 から .25 の範囲にあり、負担のほうが資源より強く関連していた。感情的な負担との相関は −.21(95% 信頼区間 −.27 から −.14)で、役割ストレッサーより強く関連していた。仕事の資源のうちでは社会的な支援のほうが仕事の裁量より強く関連していた。年齢および性別とは関係がなかった。効果量のばらつきは中程度から大きく、多くの関係で異質性の指標が 67% を超えている。本記事の数値はすべて相関であり、因果関係を示すものではない。心理学の国際学術誌
- ザビーネ・ゾンネンターク、シャーロット・フリッツ(2007 年発表)「回復経験質問紙 ── 勤務から離れているあいだの回復を測る尺度の開発と妥当性の検証」職業健康心理学の国際学術誌 12(3) 204-221 — 心理的距離を含む 4 つの回復経験(心理的距離・リラックス・熟達・コントロール)を測る尺度を開発した研究。本記事の主データであるメタ分析が統合した多くの研究で、この尺度が用いられている。本記事では、心理的距離という概念がどう測られているかの出どころとして参照している。職業健康心理学の国際学術誌
- ザビーネ・ゾンネンターク、ウルスラ・バイヤー(2005 年発表)「頭を切り替える ── 勤務時間外における仕事からの心理的距離の規定要因と帰結」職業健康心理学の国際学術誌 10(4) 393-414 — 勤務時間外に仕事から心理的な距離を取ることを正面から扱った初期の実証研究。時間的な負担が大きい日ほど、勤務後に仕事から離れにくくなることを示している。本記事では、負担が心理的距離を妨げるという論点の出どころとして参照している。職業健康心理学の国際学術誌
接客のお悩み、論文と現場の知恵で解決しませんか?
テンプレートと事例を組み合わせれば、
明日からの現場が変わります。