売場で香りを流すと購買点数が1.83倍 ── 何もしない店は0.93倍、香りをやめると戻った

売場で香りを流すと購買点数が1.83倍 ── 何もしない店は0.93倍、香りをやめると戻った
課題

売場で香りを流す販促は、売り手の話しか出てきません。検索して出てくるのは芳香機を売る事業者のページばかりで、売上が何倍になるのかを書いた記事が 1 本もないのが実情です。

いくら効果が大きくても、止めたら戻るのか、隣の売場にも効くのかが分からなければ、導入の判断ができません。

効果

国内のスーパー 3 店舗で 5 週間おこなわれた実験があります。香りを流した週の購買点数は 1.37 倍と 1.83 倍になりました。同じ期間になにもしなかった対照店は 0.93 倍です。

ただし 香りを止めた週は 0.98 倍まで戻り、隣の売場への波及もありませんでした。効いたことと効かなかったことを両方お伝えします。

本記事の主データは 国内の学会誌に載った査読付き論文です。当サイトの売り場記事では 特売日は 1 日の売上が 12.9% 減っていた に続く 2 本目の国内研究になります。

よくある度 ★★★☆☆
影響度 ★★★★☆
実施しやすさ ★★★☆☆
先生
先生

この記事は以下のような方に読んでいただきたい内容です。

  • 香りの販促を提案されて判断に迷っている店舗経営者
  • 効果が続くのか、止めたら戻るのかを知りたい店長
  • POP を増やしても手応えがない売り場責任者
  • 売り手の話ではなく実測データを見たい方
  • 国内の店舗で測った研究を知りたい方

概要 ── 香りを流した週だけ上がった

経営者

売場で香りを流す販促をすすめられているんですが、置いてよいものか判断がつかなくて。

先生
先生

迷って当然だと思います。この分野で検索して出てくるのは、芳香機を売っている事業者のページばかりだからです。売上が何倍になるのかを書いた記事が 1 本もありません。ただ 国内で実測した研究はあります。

この記事で扱う数字
  • 香りを流した週のカテゴリー全体: 1.37 倍と 1.83 倍(対照店は 0.93 倍)
  • 香りを止めた週: 1.09 倍と 0.98 倍
  • 2 番手ブランド: 3.65 倍(同じ店のトップブランドは 1.74 倍)
  • 香りに気づいた客: 66.7%/POP に気づいた客: 57.6%(香りに気づいた人だけなら 77.3%)
  • 探しやすくなったと答えた客: 全体 42.4%/香りと POP の両方に気づいた人は 91.7%
  • 隣の売場への波及: 効果なし
✎

この記事の数字について

主データは 国内の学会誌に載った査読付きの実務研究論文で、原文を取得して数値を照合しています。

ただし 実験店は 2 店舗・対照店は 1 店舗、対象はポテトスナック 1 カテゴリー、2012 年のデータです。 著者は食品メーカーに所属しており、論文には個人研究と明記されています。

アンケートは 1 店舗のみ・女性限定・33 名で、著者自身が「今後、複数店舗での検証が必要」と書いています。

国内スーパー 3 店舗・5 週間の実験

この研究のよくできているところは、週ごとに施策を 1 つずつ入れ替えている点です。香りが効いたのか POP が効いたのかを、あとから切り分けられる作りになっています。

実験の作り
  • 対象店: 首都圏中心に 100 店舗ほどを展開するスーパーのうち、売場面積がほぼ同じ 3 店舗
  • 対象商品: ポテトスナックのトップブランドと 2 番手ブランドを 1 品ずつ
  • 期間: 2012 年 9 月 24 日 〜 10 月 28 日の 5 週間。売価は変動させない
  • 香り: 人が通るとフライドポテトの香りが出る装置を、売場近くのエンド横に設置
  • POP: 「食感にこだわりました」という統一のキャッチコピーと商品画像。定番売場の商品の前に設置
  • 指標: 購買点数 PI 値 = 来店客 1,000 人あたりの販売数量(客数の増減の影響を除ける)
5 週間の内訳
  • 1 週目: なし(基準週)
  • 2 週目: 香りだけ
  • 3 週目: 香り + POP
  • 4 週目: POP だけ
  • 5 週目: なし(実験後週)
先生
先生

いちばん大事なのは なにもしない店(対照店)が置かれていることです。比べる相手があって、はじめて倍率に意味が出ます。導入した店の売上だけを見せる話とは、ここが決定的に違います。

カテゴリー全体は 1.37 倍と 1.83 倍

まず ポテトスナックのカテゴリー全体から見ます。香りだけを流した 2 週目に、両方の実験店で上がりました。

購買点数 PI 値(来店客 1,000 人あたりの販売数量)
  • 対照店: 1 週目 36.15 個 → 2 週目 33.64 個 → 3 週目 40.88 個 → 4 週目 31.86 個 → 5 週目 34.23 個
  • 実験店 1: 1 週目 51.99 個 → 2 週目 70.96 個 → 3 週目 62.17 個 → 4 週目 56.74 個 → 5 週目 49.05 個
  • 実験店 2: 1 週目 41.43 個 → 2 週目 75.93 個 → 3 週目 55.18 個 → 4 週目 40.75 個 → 5 週目 49.92 個
1 週目を 1 とした倍率
  • 対照店: 2 週目 0.93 倍 → 3 週目 1.13 倍 → 4 週目 0.88 倍 → 5 週目 0.95 倍
  • 実験店 1: 2 週目 1.37 倍 → 3 週目 1.20 倍 → 4 週目 1.09 倍 → 5 週目 0.94 倍
  • 実験店 2: 2 週目 1.83 倍 → 3 週目 1.33 倍 → 4 週目 0.98 倍 → 5 週目 1.21 倍
経営者

3 週目に下がっているのが気になります。香りと POP の両方を出した週ですよね。

先生
先生

よくお気づきになりました。1.37 倍 → 1.20 倍、1.83 倍 → 1.33 倍と、どちらの店でも 3 週目は 2 週目より低いんです。POP を足したことで上がったわけではありません。この論文はそこを主張していませんが、数字はそう出ています。

著者はこの結果から 「売場でフライドポテトの香りを流すと、ポテトスナックカテゴリー全体の購買促進につながる」という仮説が支持されたとしています。香りが引き起こしていたのは、あらかじめ買うと決めていなかった買物 ── 非計画購買です。

効きが大きかったのは 2 番手ブランド

次に ブランド別です。ここに、この研究のいちばん意外な結果があります。

実験店 1 での比較(1 週目を 1 とした倍率)
  • 2 週目(香りだけ): トップブランド 1.74 倍 / 2 番手ブランド 3.65 倍
  • 3 週目(香り + POP): トップブランド 2.19 倍 / 2 番手ブランド 3.68 倍
  • 4 週目(POP だけ): トップブランド 1.24 倍 / 2 番手ブランド 1.82 倍
  • 5 週目(なし): トップブランド 1.32 倍 / 2 番手ブランド 1.47 倍
2 番手ブランドの実測値と対照店
  • 実験店 1: 1 週目 0.34 個 → 2 週目 1.24 個 → 3 週目 1.25 個 → 4 週目 0.62 個 → 5 週目 0.50 個
  • 実験店 2: 1 週目 0.18 個 → 2 週目 0.52 個(2.89 倍)→ 3 週目 0.24 個 → 4 週目 0.14 個 → 5 週目 0.19 個
  • 対照店: 1 週目 0.45 個 → 2 週目 0.21 個(0.47 倍)→ 3 週目 0.25 個 → 4 週目 0.31 個 → 5 週目 0.45 個
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倍率の読み方に注意

2 番手ブランドは もともとの販売数量が小さいので、倍率が大きく出やすいという性質があります。

ただし 実測値でも 0.34 個 → 1.24 個と増えており、同じ週の対照店は 0.45 個 → 0.21 個と減っています。 倍率のからくりだけで説明できる動きではありません。

先生
先生

もう 1 つ大事な留保があります。同じ著者が 2010 年にカレーの香りで行った研究では、逆にトップブランドへの影響のほうが大きかったと報告されているんです。どちらに効くかは、まだ確定していません。

POP だけの週は動かなかった

4 週目は 香りを止めて POP だけを残した週です。ここが、導入を判断するうえでいちばん重要な週になります。

4 週目(POP だけ)のカテゴリー全体
  • 実験店 1: 1.09 倍(前週の 1.20 倍から低下)
  • 実験店 2: 0.98 倍(前週の 1.33 倍から低下し、基準週を下回った)
  • 対照店: 0.88 倍
  • → POP だけの週は、なにもしない店とほとんど変わらない

さらに 5 週目(なにもしない週)は 0.94 倍と 1.21 倍。効果は流しているあいだのもので、止めたあとまで続く性質のものではありませんでした。

経営者

では POP は貼らなくてもよいということでしょうか。

先生
先生

そうとは言い切れません。POP 単独では動かなかったのは確かですが、香りと組み合わさったときに POP の見られ方が変わっていたことが、アンケートから分かっています。次章で見ます。

POP の置き方そのものについては、国内のドラッグストアを観察した研究が「近接させると個々の影響力が低下する」と指摘しています。枚数を増やす前に、散らばせるほうが先です。

香りに気づいた客は POP にも気づく

著者は実験店の 1 つで、ポテトスナックを買った客にその場で聞き取りをしています。有効回答は女性 33 名と少数ですが、売場で何が起きていたかを説明してくれる数字です。

アンケートの結果
  • 非計画購買だった人: 87.9%(買うと決めずに来店していた)
  • 香りに気づいた人: 全体 66.7% / 非計画購買者のみ 69.0%
  • POP に気づいた人: 全体 57.6% / 香りに気づいた非計画購買者のみ 77.3%
  • 探しやすくなったと答えた人: 全体 42.4% / 香りと POP の両方に気づいた人は 91.7%
先生
先生

ここが実務では効きます。香りが、POP を見てもらうための入口になっていた。POP に気づく確率が 57.6% から 77.3% へ上がっているんです。順番があるということになります。

参考として著者は、日本 POP 広告協会が 1993 年にスーパーで行った調査を引いています。そこでは 平均 83.6% が非計画購買で、入店前にブランドまで決めていた客は 8.4% でした。今回の 87.9% が高めなのは、菓子という嗜好性の高いカテゴリーだからだと著者は説明しています。

買うものが店内で決まるという点は、売り場を直す順番でも扱っています。店内で決まる比率が高いカテゴリーほど、売場の作り方が効きます。

仮説どおりにならなかった 3 つ

この論文の誠実なところは、うまくいかなかった結果もそのまま載せていることです。売り手のページには 1 行も書かれていない部分になります。

① 隣の売場への波及はなかった
  • 著者は 惣菜売場のフライドポテトの売れ行きも見ている
  • 結果は 購買促進につながる結果は得られなかった
  • 著者の説明: 香りの刺激は一瞬で脳に伝わるが、その後の買物の過程ですぐに忘れられる
  • あわせて 「カレーの香りは献立の想起につながるが、フライドポテトの香りは献立を思い出させるところまでは至らなかった」とも述べている
② リピート率は仮説と逆になった
  • 著者の仮説は 「トップブランドのリピート率が 2 番手より高くなる」だった
  • 実際のリピート率(2 か月間): 対照店 トップ 16.8% / 2 番手 11.9%(差 4.9%)
  • 実験店 1: トップ 18.5% / 2 番手 16.1%(差 2.4%)
  • 実験店 2: トップ 14.9% / 2 番手 12.2%(差 2.7%)
  • → 差が縮まった。2 番手ブランドのリピート率への影響のほうが大きく、仮説は棄却された
③ 仕組みの説明は途中までしかできなかった
  • 著者は 「香りで値段が気にならなくなるのではないか」(価格記憶の低下)という道筋を想定していた ── 確かめられず
  • 「家族のために買おうと思うようになるのではないか」(知覚品質の向上)という道筋も想定 ── 確かめられず
  • 確かめられたのは 非計画購買が起きることと 探しやすくなることの 2 つだけ
  • 著者自身が 「全体のモデルを説明できる結果を得ることはできなかった」と明記している
先生
先生

この 3 つを知らずに導入すると、「店全体の売上が上がるはず」「一度やれば定着するはず」と期待してしまいます。効くのは、その香りと結びつく売場の、流しているあいだだけ。そこまで分かって使えば、使いどころははっきりします。

どこまで信じるか ── メタ分析との食い違いと限界

ここで 都合の悪い話をします。当サイトでは以前、店内 BGM の効果は小から中という記事で、音・香り・色の効果を 66 研究・のべ 15,621 名で統合したメタ分析を紹介しました。

メタ分析が示す香りの効果量
  • 満足度 .183 / 快さ .093 / 行動意図 .054(目安は .10 が小さい効果)
  • さらに 行動意図への効果はサービス業 .342 に対し小売業 .041
  • → 小売業で香りが行動意図に与える効果は、ごく小さい

いっぽう今回の国内の実験は 1.83 倍という大きな数字を出しています。この食い違いをどう受け取ればよいのか。

測っているものが違う
  • メタ分析: 客の気持ち・意向(満足度・快さ・また来たいか)
  • 今回の実験: その場で実際に売れた数量(購買点数 PI 値)
  • → 気持ちが動かなくても、その場の買物は動きうる
  • → 逆に 店の評価そのものを香りで変えようとすると、期待どおりにいかない可能性が高い
この研究の性質と限界
  • 実験店は 2 店舗・対照店は 1 店舗。ポテトスナック 1 カテゴリーのみ
  • 2012 年のデータ
  • アンケートは 1 店舗・女性限定・33 名。著者自身が複数店舗での検証が必要と明記
  • 著者は食品メーカー所属(論文に個人研究と明記。ブランド名は伏せられている)
  • 著者は 香りが効くカテゴリーは限定的だと書いている ── 焼きたてのパン・コーヒー・オレンジやいちごなどの果実・カレー・フライドポテトなど
  • 先行研究は エンドや特別売場が対象で、今回は定番売場を扱った点が新しい
先生
先生

まとめると、短期の販促としてなら数字が出ることがある。店の評価を長い目で変える手段としては期待しないほうがよい。そして、その香りと結びつく商品がある売場でしか効かない。ここまでが今わかっていることです。

売場で試す 5 つの手順

① 香りと商品が結びつくカテゴリーを 1 つ選ぶ
  • 著者が挙げているのは 焼きたてのパン・コーヒー・果実・カレー・フライドポテト
  • その香りの商品が売場にないカテゴリーは外す
  • 買うと決めずに来店する客が多いカテゴリーほど動く(今回は非計画購買が 87.9%)
② 比べる相手を先に決める
  • なにもしない期間か、なにもしない別店舗を必ず置く
  • 研究では 対照店が 0.93 倍だったからこそ、1.83 倍に意味が出た
  • 導入後の売上だけを見て判断しない
③ 客数ではなく 1,000 人あたりの販売数量で見る
  • 研究が使ったのは 購買点数 PI 値 = 来店客 1,000 人あたりの販売数量
  • 売上高だけを見ると 客数の増減にまぎれる
  • 売価は動かさない。研究も売価変動がないように設定している
④ 香りを先に、POP をあとに置く
  • アンケートでは 香りに気づいた人ほど POP に気づいていた(57.6% → 77.3%)
  • POP だけの週は、なにもしない店とほとんど変わらなかった
  • POP は香りの受け皿として置く。枚数を増やす前に、香りがあるかを確かめる
⑤ 止めたあとまで測る
  • 研究では 香りを止めた週が 1.09 倍と 0.98 倍まで戻った
  • 効果が続くかどうかは、止めてみないと分からない
  • 続かないなら 装置の費用は毎週かかり続けるものとして計算する

30 日の進め方 ── 決める・流す・止める

1〜10 日目 ── 決める
  • ① 香りと結びつく商品がある売場を 1 つ選ぶ: パン・コーヒー・果実・カレーなど
  • ② その売場の販売数量と来店客数を毎日記録する: 1,000 人あたりに直す
  • ③ 比べる相手を決める: なにもしない期間か、なにもしない別店舗
  • ④ 期間中は売価を動かさないと決める: 特売と重ねない
11〜20 日目 ── 流す
  • ⑤ 香りだけを 1 週間流す: POP は貼らない。香り単独の効きを見る
  • ⑥ 次の 1 週間で POP を足す: 統一のキャッチコピーと商品画像
  • ⑦ 客に 3 つだけ聞く: 買うと決めて来たか/香りに気づいたか/探しやすかったか
  • ⑧ 隣の関連売場の数量も並べて記録する: 波及が起きるかを見る
21〜30 日目 ── 止める
  • ⑨ 香りを止めて POP だけにする: ここで戻るかどうかが判断の分かれ目
  • ⑩ 最後の週はどちらも外す: 基準週に戻るかを見る
  • ⑪ 4 週ぶんの数量を並べる: 比べる相手と同じ表に置く
  • ⑫ 続けるかを、毎週かかる費用と見比べて決める: 止めたら戻る前提で計算する
✎

この 30 日で確かめていること

「効くかどうか」ではなく、自店で、どの週に、どれだけ動くかを見ています。

研究の数字は 2012 年・ポテトスナック 1 カテゴリー・実験店 2 店舗のものです。 そのまま当てはまる保証はありません。比べる相手を置いて自分で測るところまでが手順です。

まとめ

この記事のポイント
  • 国内スーパー 3 店舗・5 週間の実験で、香りを流した週の購買点数は 1.37 倍と 1.83 倍。 なにもしない対照店は 0.93 倍
  • 香りを止めた週は 1.09 倍と 0.98 倍まで戻った。 効果は流しているあいだのもの
  • POP だけの週は、なにもしない店とほとんど変わらなかった
  • ただし 香りに気づいた人ほど POP に気づいていた(57.6% → 77.3%)。 POP は香りの受け皿として効く
  • 効きが大きかったのは 2 番手ブランド(3.65 倍/同じ店のトップブランドは 1.74 倍)。 ただし 同じ著者の 2010 年の研究では逆だった
  • 隣の売場への波及はなかった。 その香りと結びつく売場にしか効かない
  • リピート率は仮説と逆 ── トップと 2 番手の差が 4.9% から 2.4% へ縮まった
  • 買った客の 87.9% は、買うと決めずに来店していた。 探しやすくなったと答えた人は、香りと POP の両方に気づいた人で 91.7%
  • 66 研究のメタ分析では、小売業で香りが行動意図に与える効果は .041 とごく小さい。 気持ちは動かなくても、その場の買物は動きうる
  • 実験店 2 店舗・1 カテゴリー・2012 年のデータ。 著者は食品メーカー所属で、論文には個人研究と明記されている
  • 手順は ①香りと結びつく売場を選ぶ ②比べる相手を先に決める ③1,000 人あたりで見る ④香りを先に POP をあとに ⑤止めたあとまで測る

今週できることは 1 つだけです。自店で、香りと結びつく商品がある売場を 1 つ書き出してみること。思い当たらなければ、この販促は自店には向いていません。装置の見積もりを取るのはそのあとで構いません。

※ 主データは国内の学会誌に掲載された査読付きの実務研究論文で、原文を取得して数値を照合しています。ただし実験店は 2 店舗・対照店は 1 店舗、対象はポテトスナック 1 カテゴリー、2012 年のデータです。自店の値を示すものではありません。著者は食品メーカーに所属しており、論文には個人研究と明記されています。対象ブランド名は論文中で伏せられています。アンケート調査は 1 店舗のみ・女性限定・有効回答 33 名で、著者自身が今後は複数店舗での検証が必要と述べています。香りを流した週に隣接する惣菜売場のフライドポテトの購買促進につながる結果は得られておらず、価格記憶の低下と知覚品質の向上という 2 つの道筋も確かめられていません。著者は想定したモデル全体を説明できる結果は得られなかったと明記しています。またリピート率については、トップブランドのリピート率が高くなるという仮説が棄却されています。効果量のメタ分析の数値は別の研究から引用したもので、測っている指標が異なります。自店では、比べる相手を置いたうえで、来店客 1,000 人あたりの販売数量を香りの導入前・導入中・停止後で記録しながら確かめてください。

よくある質問

売場で香りを流すと本当に売れるのですか

流している週は売れました。国内のスーパー 3 店舗で 5 週間おこなわれた実験では、ポテトスナックの定番売場の近くでフライドポテトの香りを流した週に、カテゴリー全体の購買点数が 1 週目の 1.37 倍と 1.83 倍になりました。購買点数は来店客 1,000 人あたりの販売数量で、客数の増減の影響を除いた数字です。同じ期間になにもしなかった対照店は 0.93 倍で、上がっていません。ただし香りを止めた週は 0.98 倍と 1.09 倍まで戻りました。効果は流しているあいだのもので、止めたあとまで続く性質のものではありませんでした。

POP を貼るだけではだめなのですか

この実験では、POP だけの週はほとんど動きませんでした。5 週間の内訳は、2 週目が香りだけ、3 週目が香りと POP の両方、4 週目が POP だけです。カテゴリー全体の倍率は 2 週目が 1.37 倍と 1.83 倍、3 週目が 1.20 倍と 1.33 倍、そして4 週目は 1.09 倍と 0.98 倍でした。対照店の同じ週が 0.88 倍なので、POP だけの週は対照店と大きく変わりません。ただし POP が無駄だったという意味ではありません。アンケートでは、香りに気づいた非計画購買者では 77.3% が POP に気づいていました(全体では 57.6%)。香りが POP を見てもらうための入口になっていたことになります。

どのブランドに効くのですか

この実験では 2 番手のブランドのほうが大きく動きました。実験店の 1 つで比べると、香りだけを流した週にトップブランドが 1 週目の 1.74 倍だったのに対し、2 番手ブランドは 3.65 倍でした。香りと POP の両方を出した週も、トップブランドが 2.19 倍、2 番手が 3.68 倍です。もともとの販売数量が小さいぶん倍率が大きく出やすい点には注意が必要ですが、実測値でも1 週目 0.34 個が 2 週目 1.24 個へ増えています。なお同じ著者が 2010 年にカレーの香りで行った研究では、逆にトップブランドへの影響のほうが大きかったと報告されています。どちらに効くかは、まだ確定していません。

香りは隣の売場にも効きますか

この実験では効きませんでした。著者は、ポテトスナック売場でフライドポテトの香りを流したことが、惣菜売場のフライドポテトの購買にも波及するかを検証しています。結果は、香りを流した週に惣菜売場のフライドポテトの購買促進につながる結果は得られませんでした。著者の説明は、香りの刺激は一瞬で脳に伝わるものの、その後の買物の過程ですぐに忘れられてしまうというものです。カレーの香りは今晩の献立の想起につながるが、フライドポテトの香りは料理の献立を思い出させるところまでは至らなかった、とも述べています。香りは、その香りと結びつく商品の売場にだけ効くものとして考えてください。

香りの効果は小さいという話も聞きます

どちらも正しく、測っているものが違います。音や香り、色の効果を 66 研究・のべ 15,621 名で統合したメタ分析では、香りがある環境の効果量は満足度で .183、快さで .093、行動意図で .054 でした。目安は .10 が小さい効果なので、行動意図はごく小さい部類です。しかもこのメタ分析では、香りが行動意図に与える効果はサービス業 .342 に対し小売業 .041と、小売業でさらに下がっていました。いっぽう今回の国内の実験が測っているのは、その場で実際に売れた数量です。メタ分析が測っているのは客の気持ちや意向で、今回の実験が測っているのは実売という違いがあります。長い目で見た店の評価を香りで変えようとすると期待どおりにいかない可能性が高く、短期の販促として使うなら数字が出ることがある、という受け取り方が実態に近いはずです。

📚 この記事の参考研究・一次資料
  • 渡辺将行(2013 年発表)「五感刺激(香り・POP)による店頭プロモーションがショッパーの購買行動に与える効果検証」プロモーショナル・マーケティング研究 第 6 号 40-55 — 本記事の主データ。国内の学会誌に掲載された査読付きの実務研究論文。首都圏中心に 100 店舗ほどを展開するスーパーのうち売場面積がほぼ同じ 3 店舗で、2012 年 9 月 24 日から 10 月 28 日までの 5 週間、ポテトスナックの定番売場を対象に実施された。1 週目はなし、2 週目は香りだけ、3 週目は香りと POP、4 週目は POP だけ、5 週目はなしという構成で、売価は変動させていない。来店客 1,000 人あたりの販売数量(購買点数 PI 値)で比較したところ、香りを流した 2 週目にカテゴリー全体が実験店 2 店舗で 1.37 倍と 1.83 倍になり、なにもしない対照店は 0.93 倍だった。POP だけの 4 週目は 1.09 倍と 0.98 倍まで戻っている。ブランド別では、実験店の 1 つで 2 週目にトップブランドが 1.74 倍、2 番手ブランドが 3.65 倍となり、2 番手への影響のほうが大きかった。2 か月間のリピート率はトップと 2 番手の差が対照店 4.9% に対し実験店で 2.4% と 2.7% に縮まり、トップブランドのリピート率が高くなるという仮説は棄却された。実験店 1 店舗でのアンケート(有効回答 女性 33 名)では、非計画購買が 87.9%、香りに気づいた人が 66.7%、POP に気づいた人が 57.6%(香りに気づいた非計画購買者では 77.3%)、探しやすくなったと答えた人が 42.4%(香りと POP の両方に気づいた人では 91.7%)だった。いっぽう隣接する惣菜売場のフライドポテトへの波及効果は得られず、価格記憶の低下と知覚品質の向上のパスも確かめられておらず、著者は想定したモデル全体を説明できる結果は得られなかったと明記している。著者は江崎グリコ株式会社に所属し、論文には個人研究と記載されている。日本プロモーショナル・マーケティング学会の学会誌
  • ホルガー・ロシュク、サンドラ・ロイカ、マルティン・アイゼント(2017 年発表)「小売とサービスの環境が客の反応に与える影響 ── メタ分析による検討」 — 音・香り・色といった店内の環境要素が客の反応に与える効果を、66 研究・135 の効果・のべ 15,621 名で統合したメタ分析。香りがある環境の効果量は満足度 .183、快さ .093、行動意図 .054 で、行動意図への効果はサービス業 .342 に対し小売業 .041 だった。本記事では、実売を測った今回の実験と、態度指標を測ったメタ分析の食い違いを説明するために参照している。小売研究の国際学術誌
  • 増田大之、菊池眞也、新井健(2009 年発表)「エージェントベースシミュレーションによる小売店舗レイアウトの効果分析」日本経営工学会論文誌 60(3) 128-144 — 国内のドラッグストアを観察し、客ひとりひとりの動きを再現するシミュレーションで売場レイアウトの効果を分析した原著論文。POP については、近接させると個々の POP の影響力が低下すると考えられ、点在させることで客が注視する機会を増やすべきだという仮説が示されている。本記事では、POP の置き方についての論点として参照している。日本経営工学会の学会誌

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