どう直すかを客に選ばせると再購買の意向が.22 ── ただし補償を出すと効果は薄れる
クレーム対応の解説では、「代替案を複数出して、お客様に選んでもらう」がほぼ必ず勧められます。
ところが それがどれくらい効くのかを数字で示した記事がありません。手順の 1 つとして並べられているだけです。
21 論文・7,872 名を統合したメタ分析があります。客を対応に参加させることと各指標の相関は .20 から .28。再購買の意向は .22 でした。
著者自身が「効果量はむしろ弱い」と書いています。それでも 効く条件と効かない条件がはっきり分かれました。
クレームの 最初の 30 秒については クレーム初動 30 秒テンプレで扱いました。本記事は そのあとの「どう直すか」を決める場面の話です。
この記事は以下のような方に読んでいただきたい内容です。
- クレーム対応の手順を見直している店舗経営者
- 代替案を出しても納得されないと感じる店長
- 値引きや返金で収めることが多い売り場責任者
- 手順の効果の大きさを知ってから決めたい方
- 効く条件と効かない条件を分けて知りたい方
概要 ── 選ばせる効果は、思ったより小さい
クレームのときは代替案をいくつか出して、お客様に選んでいただくようにしているんですが、それで合っていますか。
方向は合っています。ただ 効果の大きさは、期待されているほどではありません。21 本の論文を統合したメタ分析があるのですが、相関は .20 から .28。そのかわり、効く条件がはっきり分かっています。
- 結果の公平さの感じ方との相関: .28(最も高い)
- 再購買の意向との相関: .22 / クチコミの意向: .22
- 対応への満足・全体満足との相関: それぞれ .20
- 結果に参加させるほうがプロセスより強い(統計的に確認された差)
- 補償を出すと効果が弱くなる/オンラインでも弱くなる
- 東洋文化圏では強く出る
この記事の数字について
主データは マーケティングの国際学術誌に載ったメタ分析で、原文を取得して数値を照合しています。
ただし ここに出てくるのはすべて相関であって、因果ではありません。 相関の目安は .10 が小さい / .30 が中くらい / .50 が大きいです。
また 論文の要旨と結果の節で、2 つの条件について向きが逆になっています。 本記事は 推定値と有意水準が示されている結果の節に従いました。
21 論文・7,872 名を統合したメタ分析
- 86 の効果量
- 30 の独立したサンプル
- 21 本の論文
- 累計 7,872 名
- 2 名のコーダーによる分類の一致度は .86
- 論文が採用している定義は 「提供者との共同作業を通じて、客が対応の中身を形づくったり、自分好みにしたりできること」
- 店でいえば 交換するか返金するか/いつ届けるか/どう埋め合わせるかを、客と一緒に決めること
- 話を聞くこととは別。決め方に関わってもらうことを指す
この定義は押さえておいてください。傾聴や共感は、ここでいう「参加」に含まれません。中身を一緒に決めるかどうかです。最初の 30 秒でやる共感とは、別の話になります。
相関は .20 から .28 どまり
- 結果の公平さの感じ方: .28(いちばん高い)
- 再購買の意向: .22
- クチコミの意向: .22
- 対応への満足: .20 / 全体満足: .20
- 手順の公平さ・扱われ方の公平さ: いずれも有意でない、または限界的
.22 というのは、大きいのでしょうか。
目安では .10 が小さい、.30 が中くらいなので、中くらいに届いていません。著者も 「効果量はむしろ弱い」と書いています。やる価値はあるが、これだけで大きく変わると期待しないのが正確なところです。
いっぽう 出版バイアスへの頑健さを示す指標は、すべての関係で推奨される水準を超えています。効果が小さいこと自体は、それなりに確からしいということになります。
- 手間がほとんどかからない ── 選択肢を先に決めておけば、聞くだけで済む
- 費用もかからない ── 補償のように原価が出ていくわけではない
- 効果が小さい施策でも、費用と手間が小さければ割に合う
- 逆に、大きな投資をしてまでやる施策ではない
効果量の読み方で大事なのは、大きさだけでなく、かかる手間と並べて見ることです。相関 .22 は小さいですが、朝礼で選択肢を 3 つ決めておくだけなら、それで十分に見合います。
何を選ばせるかで変わる
ここからが実務で効く部分です。参加させる中身を分けると、差が出ました。
- 結果(どう直すか)に参加させるほうが強い(統計的に確認された差)
- プロセス(どう進めるか)に参加させるだけでは弱い
- 結果だけに参加させる場合と、結果とプロセスの両方に参加させる場合では差がなかった
ここは分かりやすい結論です。「交換と返金、どちらがよろしいですか」は効く。「どのように進めましょうか」だけでは弱い。そして手順まで細かく選ばせても、上積みはありません。
補償を出すと、選ばせる効果は薄れる
意外なのがここです。
- 追加の補償があったとき、客を参加させる効果は弱くなった(統計的に有意)
- → 補償と参加は足し算にならない
- → どちらかが効いていれば、もう一方の上積みは小さい
⚠️ 論文の要旨と結果の節で向きが逆になっています
要旨には「補償があるときに効果が強い」と書かれています。 いっぽう 推定値と有意水準が示されている結果の節には「弱くなる」とあります。
本記事は、数値の根拠がある結果の節に従いました。 この食い違いは、次章のオンラインの条件でも起きています。
実務では 「値引きも出して、選んでもいただく」で二重に効くわけではないと読めます。補償を出すなら、選ばせる手間は省いてもよい。逆に 補償を出さずに済ませたいなら、選んでもらう意味が大きくなるということになります。
なお 補償そのものが効かないという話ではありません。クレーム対応の効果を統合した別のメタ分析では、問題を解決すること・補償を出すこと・謝ること・迅速に動くことが、いずれも客の反応を回復させると報告されています。本記事が扱っているのは、そこに「選ばせる」を足したときの上積みの大きさです。
東洋文化では強く出た
- 西洋文化では効果が弱くなる(統計的に有意)
- → 東洋文化圏では強く出る
- → 国内の店舗にとっては、有利な条件にあたる
海外の研究をそのまま持ってくると弱く見える、ということですか。
そう読めます。統合された研究の多くは西洋のものなので、平均値は東洋文化圏の実態より低く出ている可能性があります。ただしこれも相関であって、国内で測り直した数字ではありません。
対面のほうが効く
- オンラインの場面は、対面より効果が弱い
- ただし 限界的な差(有意水準をわずかに外れている)なので、強くは言えない
- → 対面の店舗のほうが向いている施策と読める
こちらも要旨では逆に書かれています。本記事は結果の節に従いました。
オンラインでの対応については、飲食店のレビュー対応で別の角度から扱っています。レビューへの返信は、選ばせる場面とは別の設計が要ります。
3 つの公平さのどれを通るのか
研究は なぜ効くのかも調べています。クレーム対応の研究では、客が感じる公平さを 3 つに分けます。
- 結果の公平さ: 受け取った埋め合わせが見合っているか
- 手順の公平さ: 決め方や進め方が妥当だったか
- 扱われ方の公平さ: ていねいに、敬意をもって接してもらえたか
- 対応への満足へ: 結果の公平さと手順の公平さを経由する。 扱われ方の公平さは経由しない
- 全体満足へ: 結果の公平さと扱われ方の公平さを経由する。 手順の公平さは経由しない
- → どちらにも共通して通るのは「結果の公平さ」だけ
この結果が、前の章とつながります。共通して効いているのは「結果が見合っている」という感覚。だから結果に参加させるほうが強い。筋が通っています。
- 結果の公平さに効く言い方: 「交換と返金、どちらがよろしいですか」/「今日お持ち帰りか、後日お届けか、お選びいただけます」
- 手順の公平さにしか効かない言い方: 「まず確認いたしまして、それから…」と段取りだけを伝える
- 扱われ方の公平さは、参加とは別のところで決まる ── 初動 30 秒の共感がここにあたる
- → 共感で扱われ方を、選択肢で結果を、それぞれ別に押さえる
この研究の第一著者は、サービスの失敗から回復までを一連の過程として捉え直した統合レビューも書いています。クレーム対応を 1 つの手順ではなく、失敗の前・最中・後に分けて設計するという見方です。選ばせるかどうかは、そのうち「最中」に置かれる 1 手にすぎません。
この研究の性質と限界
- 86 の効果量・30 サンプル・7,872 名を統合している
- 出版バイアスへの頑健さを示す指標が、すべての関係で推奨水準を超えている
- 参加の中身(結果かプロセスか)を分けて比べている
- 効果が弱いことを、著者自身がはっきり書いている
- すべて相関であって、因果ではない
- 統合された研究は 21 本・30 サンプルと多くない
- 効果量のばらつきが大きい(異質性の検定がすべて有意)
- 学生を被験者にした研究では効果が弱い ── 実店舗の客とは条件が違う研究が含まれる
- 一流誌に載った研究のほうが効果が強い ── 発表のされ方で数値が動く余地がある
- 要旨と結果の節で、補償とオンラインの 2 条件について向きが逆になっている
自店に持ち込めるのは 数値そのものではありません。 ①どう直すかを選んでもらう ②補償と重ねない ③対面でやる。 この 3 つの考え方のほうです。
店舗で試す 5 つの手順
- 交換・返金・再提供・次回の割引など、店として出せるものを 3 つまで書き出す
- その場で考えると、出せないものを口にしてしまう
- 研究が効くと示したのは 結果(どう直すか)への参加
- 「交換と返金、どちらがよろしいですか」と聞く
- 「どのように進めましょうか」だけでは弱い
- 手順まで細かく選ばせても上積みはなかった
- 研究では 追加の補償があると、選ばせる効果は弱くなった
- 値引きを出すなら、選ばせる手間は省いてよい
- 補償を出さずに収めたい場面ほど、選んでもらう意味が大きい
- 研究では オンラインの場面のほうが効果が弱かった(限界的な差)
- メールやチャットで完結させず、店頭や電話に切り替える
- ただし 限界的な差なので、強い根拠ではない
- 相関は .20 から .28。中くらいに届かない
- これ 1 つで再来店が大きく変わるとは考えない
- 初動 30 秒や 書かれない不満の拾い方と合わせて積む
まとめ
- 客をクレーム対応に参加させることと各指標の相関は .20 から .28(21 論文・30 サンプル・7,872 名のメタ分析)
- 内訳は 結果の公平さ .28 / 再購買の意向 .22 / クチコミの意向 .22 / 対応への満足と全体満足がそれぞれ .20
- 著者自身が「効果量はむしろ弱い」と書いている (目安は .10 が小さい・.30 が中くらい)
- 結果(どう直すか)に参加させるほうが、プロセスより強い。 両方選ばせても上積みはない
- 追加の補償があると、参加させる効果は弱くなる。 補償と参加は足し算にならない
- 西洋文化では弱い = 東洋文化圏では強く出る。 国内の店舗には有利な条件
- オンラインは対面より弱い(限界的な差)
- 共通して通っているのは 「結果が見合っている」という感覚。 だから結果に参加させるほうが効く
- 要旨と結果の節で、補償とオンラインの向きが逆になっている。 本記事は推定値のある結果の節に従った
- 手順は ①出せる選択肢を先に決める ②手順ではなく結果を選んでもらう ③補償と重ねない ④対面でやる ⑤期待値を上げすぎない
今週できることは 1 つだけです。自店で出せる埋め合わせを 3 つまで書き出して、朝礼で共有しておくこと。その場で考えなくて済むようになれば、選んでもらう形に切り替えられます。効果の大きさは中くらいに届きませんが、手間はほとんどかかりません。
※ 主データはマーケティングの国際学術誌に掲載されたメタ分析で、原文を取得して数値を照合しています。86 の効果量・30 の独立サンプル・21 本の論文・累計 7,872 名を統合したものです。ただし本記事に出てくる数値はすべて相関であり、因果関係を示すものではありません。相関の大きさの目安は .10 が小さい、.30 が中くらい、.50 が大きいとされており、著者自身が効果量はむしろ弱いと述べています。効果量のばらつきは大きく、異質性の検定はすべての関係で有意になっています。また学生を被験者にした研究では効果が弱く、一流誌に掲載された研究では効果が強いという結果が報告されており、研究の条件や発表のされ方によって数値が動く余地があります。統合された研究は 21 本・30 サンプルと多くはありません。なお論文の要旨には、追加の補償があるときとオンラインの場面で効果が強いと書かれていますが、推定値と有意水準が示されている結果の節には、いずれも弱くなると記載されています。本記事は結果の節の記述に従いました。文化差についても、西洋文化で効果が弱いという結果から東洋文化圏では強く出ると読んでいますが、国内で測り直した数値ではありません。自店では、出せる埋め合わせをあらかじめ決めたうえで、結果を選んでもらう形にして確かめてください。
よくある質問
クレーム対応で客に選ばせると効果はありますか
あります。ただし大きくはありません。21 本の論文・30 の独立サンプル・累計 7,872 名を統合したメタ分析によると、客を対応に参加させることと各指標の相関は、結果の公平さの感じ方が .28、再購買の意向が .22、クチコミの意向が .22、対応への満足と全体満足がそれぞれ .20 でした。相関の目安は .10 が小さい、.30 が中くらいなので、中くらいに届かない水準です。著者自身も効果量はむしろ弱いと書いています。効かないという意味ではなく、これだけで大きく変わると期待しないほうがよい、という受け取り方になります。
何を選ばせればよいのですか
結果のほうです。この研究は、どう直すかという結果に参加させる場合と、どう進めるかというプロセスに参加させる場合を分けて比べています。その結果、結果への参加のほうが効果が強いことが統計的に確かめられました。プロセスへの参加だけでは弱くなります。なお、結果だけに参加させる場合と、結果とプロセスの両方に参加させる場合では差がありませんでした。つまり手順まで選ばせても上積みはなく、どう直すかを選んでもらうところが効きどころになります。
補償と組み合わせると効果は上がりますか
上がりませんでした。むしろ弱くなっています。このメタ分析では、追加の補償があったときに、客を参加させる効果が弱くなることが統計的に確かめられました。補償と参加は足し算にならず、どちらかが効いていればもう一方の上積みは小さい、と読めます。なお論文の要旨には補償があるときに効果が強いと書かれていますが、推定値と有意水準が示されている結果の節には弱くなると書かれています。本記事は結果の節に従いました。この食い違いも含めてご確認ください。
国内の店舗でも同じ結果になりますか
むしろ国内のほうが効きやすい可能性があります。このメタ分析は文化による違いも調べており、西洋文化では効果が弱くなることが統計的に確かめられました。裏を返せば東洋文化圏では強く出るということになります。また場面による違いも見ており、オンラインの場面はオフラインより効果が弱いという結果でした。こちらは限界的な差なので強くは言えませんが、対面の店舗のほうが向いている施策だと読めます。ただしどちらも相関であって因果ではなく、統合された研究の数も 21 本と多くはありません。
この数字をそのまま自店に当てはめてよいですか
当てはめないでください。理由は 4 つあります。1 つ目は、これが相関であって因果ではないこと。2 つ目は、統合された研究が 21 本・30 サンプルと多くないこと。3 つ目は、効果量のばらつきが大きく、異質性の検定がすべて有意になっていること。4 つ目は、学生を被験者にした研究では効果が弱く、一流誌に載った研究では効果が強いという結果が出ていることです。つまり研究の条件や発表のされ方で数値が動く余地があります。自店で使えるのは数値そのものではなく、どう直すかを選んでもらう、補償と重ねない、という 2 つの考え方のほうです。
- イヴ・ヴァン・ヴェーレンベルフ、シモン・アゼー、アネリース・コスタース(2018 年発表)「サービス・リカバリーへの客の参加 ── メタ分析」マーケティング・レターズ 29(4) 465-483 — 本記事の主データ。客がクレーム対応の中身を提供者との共同作業で形づくることの効果を、86 の効果量・30 の独立サンプル・21 本の論文・累計 7,872 名で統合したメタ分析。信頼性補正・サンプルサイズ加重の相関は、結果の公平さ .28、再購買意図 .22、クチコミ意図 .22、リカバリー満足 .20、全体満足 .20 で、著者らは効果量はむしろ弱いと述べている。手順の公平さと扱われ方の公平さとの関係は有意でないか限界的だった。媒介の分析では、リカバリー満足へは結果の公平さと手順の公平さを経由し、全体満足へは結果の公平さと扱われ方の公平さを経由していた。調整変数の分析では、結果への参加のほうがプロセスへの参加より効果が強く、結果のみと結果・プロセス両方では差がなかった。また追加の補償があったとき、西洋文化のとき、オンラインの場面のときに効果が弱くなることが報告されている。ただし論文の要旨では補償とオンラインについて逆の記述がなされており、本記事は推定値と有意水準が示されている結果の節に従った。出版バイアスへの頑健さを示す指標はすべての関係で推奨水準を超えている一方、効果量の異質性はすべての関係で有意である。ルーヴェン・カトリック大学およびリエージュ大学の研究。マーケティングの国際学術誌
- カティヤ・ゲルブリヒ、ホルガー・ロシュク(2010 年発表)「組織のクレーム対応と客の反応に関するメタ分析」サービス研究の国際学術誌 14(1) 24-43 — クレーム対応の効果を統合したメタ分析。問題を解決すること、補償を提供すること、失敗を謝罪すること、迅速に動くことが客の反応を回復させることを示している。本記事では、主データが導入で引いている前提として参照している。サービス研究の国際学術誌
- イヴ・ヴァン・ヴェーレンベルフ、ドロタ・ヴァルガ、アルネ・デ・カイザー、キアラ・オルシンゲル(2019 年発表)「サービス・リカバリーの旅 ── 概念化、統合、今後の方向性」サービス研究の国際学術誌 22(2) 103-119 — 主データと同じ第一著者による統合レビュー。サービスの失敗から回復までを一連の過程として捉え直し、失敗前・失敗中・失敗後のそれぞれで企業が取りうる手立てを整理している。本記事では、クレーム対応を一つの手順ではなく過程として設計するという考え方の裏づけとして参照している。サービス研究の国際学術誌
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