新しい食べ方を売場で見せると売上が他店比2.05倍 ── 立寄りは0.785倍に減っていた
「この商品、こんな食べ方もできます」という提案を売場に出す。よくある販促です。ところが 本当に効いたのかを測った記事がほとんどありません。
実際に国内スーパーで測ってみると、売上は上がったのに、足を止めた客はむしろ減っていました。
エンド売場を 8 週間借りた実験で、新しい使い方を訴求した週の売上は、同チェーン 3 店舗と比べて 2.05 倍になりました。
いっぽう天井カメラで測った 立寄りは 0.785 倍。足は止まっていないのに売上が増えたという結果です。その中身を 4 段階に分けて見ていきます。
本記事の主データは 国内の学会誌に載った査読付きの実務研究論文です。売場で香りを流すと購買点数が 1.83 倍 と同じ学会誌で、当サイトの売り場記事では 4 本目の国内研究になります。
この記事は以下のような方に読んでいただきたい内容です。
- 値引き以外で既存商品を動かしたい店舗経営者
- エンド売場の効果を測りたい店長
- 提案型の販促をしているが手応えがない売り場責任者
- 売場の改善を数字で確かめたい方
- 国内の店舗で測った研究を知りたい方
概要 ── 売上は上がったのに足は止まらなかった
売場で「こんな使い方もあります」という提案を出しているんですが、効いているのか分からなくて。
それを実際に測った国内の研究があります。結果が面白くて、売上は上がったのに、足を止めた客は減っていたんです。売場を 4 つの動作に分けて数えると、何が起きたかが見えてきます。
- 売上のリフト値: 2.05 倍(選ぶ楽しみのある商品)/1.16 倍(少ない商品)
- 立寄りへの影響: 0.785 倍(訴求すると減る方向)
- 選ぶ楽しみのある売場そのものの効果: 立寄り 1.442 倍/接触 1.715 倍
- 商品を手に取っている時間: 1.518 倍(+3.252 秒)
- 売場にいる時間: 1.286 倍(+1.492 秒)
- 手に取った人がそのまま買う強さ: 0.442 → 0.690
この記事の数字について
主データは 国内の学会誌に載った査読付きの実務研究論文で、原文を取得して数値を照合しています。
ただし 実験店は 1 店舗・対照店は 3 店舗、エンド売場 1 ヶ所、2014 年のデータです。
また 立寄率・接触率・買上率については、著者自身が「統計的に十分な差を検出できなかった」と明記しています。この違いは本文でも都度示します。
エンド売場を 8 週間借りた実験
この研究の作りで注目したいのは、売価も商品構成もフェイス数もそろえたうえで、訴求内容だけを変えていることです。
- 場所: 首都圏中心に 150 店舗ほどを展開するチェーンの、住宅地立地 1 店舗
- 規模: 売場面積 2,315 平方メートル、1 日あたりの来店客数 3,500 人ほど
- 場所の詳細: 主通路に面したエンド売場 1 ヶ所を借りた
- 期間: 2014 年 9 月 30 日 〜 11 月 24 日の 8 週間のうち 4 週間
- そろえたもの: 商品構成・フェイス数・売価はすべて同一
- 選ぶこと自体を楽しみやすい商品: インスタントスープ(10 品目)
- 選ぶ楽しみが少なく、特売に頼りがちな商品: 風味調味料(10 品目)
- それぞれ 訴求なしの週と 新しい使い方を訴求した週を用意し、1 か月ほど間を空けた
- POS データ: 金額 PI(来店客 1,000 人あたりの販売金額)と点数 PI。 同チェーンの同タイプ 3 店舗と比較
- 行動データ: 売場の天井に設置したカメラの映像
- 店頭アンケート: 実験エンドから離れた直後に声をかけて実施
この研究のいちばんの手柄は 天井カメラで行動を 4 つに分けて数えたことです。売上だけを見ていたら、この記事の結論は出てきません。
なお 新奇性という言葉を論文は 「買物客が経験したことのない、既存商品の新しい食べ方や使い方」と定義しています。新商品を出す話ではなく、いまある商品の見せ方を変える話です。
同じエンド売場でも、日替り商品を店頭に置くと客は他を見ないという国内研究があります。置き場所で決まる部分と、訴求内容で決まる部分は別です。
売上は他店比 2.05 倍
まず売上から見ます。ここで リフト値という考え方が出てきます。
- 変化率 = 新しい使い方を訴求した週の実績 ÷ 訴求なしの週の実績
- リフト値 = 実験店の変化率 ÷ 他店舗の変化率
- → 季節や特売など、店の外で起きた変化を差し引ける
- 選ぶ楽しみのある商品・実験店: 1,422 円 → 1,771 円(変化率 1.25)
- 同・他店舗 3 店: 988 円 → 600 円(変化率 0.61)
- → リフト値 2.05
- 選ぶ楽しみが少ない商品・実験店: 1,428 円 → 1,485 円(変化率 1.04)
- 同・他店舗 3 店: 999 円 → 896 円(変化率 0.90)
- → リフト値 1.16
点数 PI(点/千人)でもほぼ同じ形でした。10.00 点 → 11.79 点でリフト値 2.03、もう一方は 4.66 点 → 4.85 点でリフト値 1.16 です。
他店が 0.61 倍まで落ちているのが気になります。何かあったのでしょうか。
鋭いです。著者は 同じカテゴリーの特売によるものと書いています。ただ その特売は実験店でも同じように行われていたので、検証には影響しないという説明です。リフト値がやや大きく出やすい状況だったことは、頭に置いておいてください。
この 来店客 1,000 人あたりで見るという考え方は、売場で香りを流した実験でも使われています。客数の増減にまぎれないための、国内の売場研究で標準的な指標です。
通過・立寄・接触・買上に分けて数える
ここからが本題です。天井カメラの映像から、4 つの動作を別々に数えています。
- 通過: エンドの前を右から左、または左から右に通ること
- 立寄: エンドの商品の前に 4 秒以上滞在すること
- 接触: 立寄った客が 商品に触れること
- 買上: 接触した商品を 買物カゴに入れること
- 新しい使い方の訴求 → 立寄りに負の影響(0.785 倍)
- 選ぶ楽しみのある売場 → 立寄り 1.442 倍・接触 1.715 倍
- 2 つを組み合わせたとき → 立寄りに正の影響(1.438 倍ほど)
- 買上には、どの要因も統計的に有意な影響を確認できなかった
ここは慎重に読んでください。著者自身が「統計的に十分な差を検出できなかったため、今後更に検証を行う必要がある」と書いています。比率については傾向どまりです。確かなのは売上と、次章の時間のほうになります。
立寄りが減った理由について
著者の推測は 「1 か月ほど間を空けたが、同じエンドが再現されていたため、売場への興味が低かったのではないか」というものです。
つまり 訴求内容が悪かったのではなく、同じ場所に同じ顔ぶれが並んでいたことのほうが効いた可能性がある、という読み方になります。
これは推測であり、確かめられてはいません。
手に取っている時間が 3.252 秒延びた
比率では差が出にくかったいっぽう、時間ははっきり延びました。
- 新しい使い方の訴求で 1.518 倍(+3.252 秒)
- 買った客はさらに 1.482 倍(+3.025 秒)長い
- 選ぶ楽しみの有無による違いは確認できなかった
- 新しい使い方の訴求で 1.286 倍(+1.492 秒)
- 選ぶ楽しみのある商品と組み合わせると 1.351 倍(+1.830 秒)
- 接触した客は 2.160 倍(+6.048 秒)、買った客は 2.356 倍(+7.068 秒)
3 秒というのは、大きいのでしょうか。
手に取ってから戻すまでの時間が 3 秒延びるというのは、裏の表示を読んでいる時間だと考えると分かりやすいと思います。ただし、このモデルはあてはまりがよくないと著者が書いています。目安として受け取ってください。
手に取る行動そのものが購買につながることは、青果売場で視線を測った研究でも扱っています。見る・手に取る・買うは別々の段階です。
気分が上がったのは、選ぶ楽しみが少ない売場だった
研究はアンケートで 買物のときの気分も測っています。論文はこれを 情緒的価値と呼びます。
- 情緒的価値: 刺激を受けた/選ぶのに楽しさを感じた/ストレス解消になった
- 実用的価値: 商品が探しやすかった/比べやすかった/特徴がよくわかった
- 新奇性受容: 新しい発見があった/商品に新しさを感じた/陳列に新しさを感じた
- 売場満足度: 立ち寄ってよかった/人に話したい/よい売場だと思った
- 新しい使い方を訴求した週のほうが、情緒的価値が高い(統計的に有意)
- 新奇性受容・売場満足度も同じ向き(統計的に有意)
- 実用的価値は、訴求の有無では差が出なかった
- → 情緒的価値が高かったのは、選ぶ楽しみが「少ない」商品の売場のほう
売上が伸びたのは選ぶ楽しみのある商品なのに、気分が上がったのは逆なんですね。
そこが面白いところです。著者の推測は 「調味料の売場は普段から値引きの掲示が多いので、実験エンドでもお買い得な商品があると受け取られたのではないか」というものです。気分が上がったことと、売れたことは別だということになります。
手に取った人が買う率が 0.442 から 0.690 へ
最後に 何が何を引き起こしたのかを調べた分析です。買うと決めて来た客は除き、訴求なしの週 54 名・訴求した週 41 名で比べています。
- 気分(情緒的価値)も便利さ(実用的価値)も、手に取りたい気持ちにつながっていなかった
- 別の理由で手に取りたくなり → 接触 → 計画外の購入という流れだった
- 接触から購入への強さ: 0.442
- 気分(情緒的価値)が、手に取りたい気持ちにつながった(0.331)
- 便利さ(実用的価値)は、手に取りたい気持ちにつながらなかった
- 接触から購入への強さ: 0.690(訴求なしの 0.442 から上昇)
ここが実務でいちばん効く部分だと思います。足を止める客は増えなかったけれど、手に取った客が買い切る率が上がった。集めるのではなく、迷いを減らす施策だったと読めます。
ただし、この分析の当てはまりのよさを示す指標は基準を下回っています。著者は 「あてはまりがよくない」と明記したうえで、仮説どおりの構造になっているかの確認を優先したと述べています。構造の向きを見る参考にとどめてください。
この研究の性質と限界
- 売価・商品構成・フェイス数をそろえたうえで、訴求内容だけを変えている
- 同チェーンの 3 店舗と比べてリフト値を出している
- 天井カメラで、行動を 4 つに分けて数えている
- 売場にいる時間・商品を手に取っている時間は、統計的に有意に延びた
- 事前に 大学生 34 名で、用意した掲示が意図どおり新しさを伝えるかを確認している
- 立寄率・接触率・買上率について、統計的に十分な差を検出できていない ── 著者が今後さらに検証が必要と明記
- 仕組みを調べた分析の当てはまりが基準を下回っている(著者が明記)
- 商品を手に取っている時間のモデルも、あてはまりがよくない(著者が明記)
- 実験店 1 店舗・対照店 3 店舗・エンド売場 1 ヶ所
- 2014 年のデータ。アンケートは 54 名と 41 名
- 他店舗の売上が大きく落ちたのは 同一カテゴリーの特売による
- 著者は 流通経済研究所に所属(論文に個人研究と明記)
自店に持ち込めるのは 数値そのものではありません。 ①行動を 4 つに分けて数える ②比べる相手を置く ③商品タイプで分けて見る。 この 3 つの考え方のほうです。
どこから手を付けるかの順番は 売り場を直す順番 にまとめてあります。訴求内容を変えるのは、在庫と人と導線を整えたあとです。
売場で試す 5 つの手順
- 主通路に面したエンド売場のように、通過人数が多い場所を 1 ヶ所
- 同時に複数の売場を触らない
- 研究も エンド 1 ヶ所だけで 8 週間かけている
- 値引きと同時にやらない。値引きの効果と混ざる
- 変えるのは掲示の内容だけにする
- 研究は 商品構成もフェイス数も売価も同一にそろえている
- 通過: 前を通った人数
- 立寄: 商品の前に 4 秒以上いた人数
- 接触: 商品に触れた人数
- 買上: カゴに入れた人数
- 1 日 30 分でよいので、正の字で数える
- 同じ売場の、訴求していない期間か、別の店
- 研究では 実験店が 1.25 倍でも、他店が 0.61 倍だったのでリフト値は 2.05 になった
- 自店の前後だけを見ると、外の要因を見落とす
- 選ぶこと自体が楽しい商品(味や種類で選ぶもの)で先に試す
- 研究では リフト値 2.05 倍と 1.16 倍の差がついた
- 特売に頼りがちな商品でも 1.16 倍にはなっている。試す価値はある
30 日の進め方 ── 数える・出す・比べる
- ① 売場を 1 ヶ所決める: 主通路に面した通過の多い場所
- ② 訴求なしの状態で 4 つの動作を数える: 通過・立寄・接触・買上
- ③ その売場の販売金額と来店客数を記録する: 1,000 人あたりに直す
- ④ 比べる相手を決める: 訴求しない期間か、別の店
- ⑤ 新しい使い方の掲示を 1 種類だけ出す: 売価も品目も変えない
- ⑥ 同じ 4 つの動作を、同じ時間帯に数える: 条件をそろえる
- ⑦ 手に取ってから戻すまでを数えてみる: 数秒の違いが出るかを見る
- ⑧ 立ち寄った客に 3 つだけ聞く: 楽しかったか/新しい発見があったか/また来たいか
- ⑨ 立寄りと接触と買上を、前後で並べる: 立寄りが減っていても驚かない
- ⑩ 接触した人のうち買った人の割合を出す: ここが上がっていれば効いている
- ⑪ 比べる相手の数字も同じ表に置く: 外の要因を差し引く
- ⑫ 効いたら、別の商品タイプでも試す: 1 つずつ
この 30 日で確かめていること
「客が増えたか」ではなく、手に取った客が買い切るようになったかを見ています。研究で上がったのがそこだからです。
立寄りが増えることは期待しないでください。 研究では、訴求すると立寄りはむしろ減る方向に出ています。
まとめ
- 既存商品の 新しい使い方をエンド売場で訴求すると、 売上のリフト値が 2.05 倍(選ぶ楽しみのある商品)
- 選ぶ楽しみが少ない商品でも 1.16 倍。 売価・品目・フェイス数はすべてそろえたうえでの結果
- ところが立寄りは 0.785 倍と、減る方向に出た。 足は止まっていない
- 商品を手に取っている時間は 1.518 倍(+3.252 秒)、 売場にいる時間は 1.286 倍(+1.492 秒)
- 手に取った人がそのまま買う強さが 0.442 から 0.690 へ上がった。 集める施策ではなく、迷いを減らす施策
- 気分(情緒的価値)は訴求で上がったが、 高かったのは選ぶ楽しみが「少ない」商品の売場のほう。 気分と売上は一致しない
- 立寄率・接触率・買上率は、著者自身が「統計的に十分な差を検出できなかった」と明記
- 実験店 1 店舗・対照店 3 店舗・エンド 1 ヶ所・2014 年
- 手順は ①売場を 1 ヶ所決める ②売価と品目をそろえる ③4 つの動作を数える ④比べる相手を置く ⑤商品タイプで分けて見る
今週できることは 1 つだけです。エンド売場の前に 30 分立って、通った人・4 秒以上止まった人・触った人・カゴに入れた人を、正の字で 4 列に分けて数えてみること。どこで人が減っているかが分かれば、次に何を変えるかが決まります。掲示を作るのはそのあとで構いません。
※ 主データは国内の学会誌に掲載された査読付きの実務研究論文で、原文を取得して数値を照合しています。ただし実験店は 1 店舗、対照店は同チェーンの同タイプ 3 店舗で、対象はエンド売場 1 ヶ所、2014 年 9 月から 11 月のデータです。自店の値を示すものではありません。著者は公益財団法人流通経済研究所に所属しており、論文には個人研究と明記されています。売上のリフト値は実験店の変化率を他店舗の変化率で割ったもので、他店舗の売上が大きく落ちた要因は同一カテゴリーの特売であると著者が説明しています。立寄率・接触率・買上率については、著者自身が新奇性訴求の効果について統計的に十分な差を検出できなかったため今後さらに検証を行う必要があると明記しており、本記事に記載した倍率は傾向を示すものです。商品接触時間の分析モデルは調整済み決定係数が 0.045 で、著者があてはまりはよくないと述べています。仕組みを調べた共分散構造分析についても、適合度指標が基準を下回っており、著者があてはまりがよくないと明記したうえで仮説に基づく構造の確認を優先したと述べています。アンケートの回答数は訴求なしの週が 54 名、訴求した週が 41 名で、事前調査は大学生 34 名です。自店では、売価と品目をそろえたうえで、通過・立寄・接触・買上の 4 つを比べる相手と並べて記録しながら確かめてください。
よくある質問
新しい食べ方を POP で見せると売れるのですか
この実験では売れました。国内スーパーのエンド売場を 8 週間借りた実験で、既存商品の新しい使い方を訴求した週の金額 PI が、訴求なしの週の 1.25 倍になりました。金額 PI は来店客 1,000 人あたりの販売金額です。さらに同チェーンの同タイプ 3 店舗では同じ期間に 0.61 倍まで落ちていたので、実験店の変化率を他店の変化率で割ったリフト値は 2.05 倍になります。売価・商品構成・フェイス数はすべて同じにそろえてあるので、値引きによる増加ではありません。ただし実験店は 1 店舗、対照店は 3 店舗で、2014 年のデータです。
売上が上がったのに立寄りが減ったのはなぜですか
論文でも十分に説明できていません。天井カメラで測った行動データを分析すると、新しい使い方の訴求は立寄りに対して 0.785 倍という負の影響を示しました。著者の推測は、実験スケジュール上それぞれ 1 か月ほど間を空けたものの、同じエンドが再現されていたため売場への興味が低かったのではないか、というものです。ただし著者自身が、立寄率・接触率・買上率について統計的に十分な差を検出できなかったため今後さらに検証が必要だと明記しています。確かなのは売上とアンケートと時間のほうで、行動の比率については傾向どまりだと受け取ってください。
どんな商品で効くのですか
選ぶこと自体を楽しむ商品のほうが、売上の伸びは大きくなりました。この研究は商品を 2 種類に分けています。1 つは選ぶことに楽しみを見出しやすい商品で、実験ではインスタントスープを使いました。もう 1 つは選ぶ楽しみが少なく特売に頼りがちな商品で、風味調味料を使っています。売上のリフト値は、前者が 2.05 倍、後者が 1.16 倍でした。ところが買物客に聞いた情緒的価値の得点は逆で、風味調味料のエンドのほうが高く出ています。著者は、風味調味料の売場は普段から価格訴求が多いため、実験エンドでもお買い得な商品があると受け取られたのではないかと推測しています。
手に取ってもらう時間は変わりますか
延びました。重回帰分析の結果、新しい使い方を訴求すると、商品を手に取っている時間が 1.518 倍、秒に直すと 3.252 秒長くなりました。売場にいる時間も 1.286 倍、秒に直すと 1.492 秒長くなっています。さらに選ぶ楽しみのある商品と組み合わせると、売場にいる時間は 1.351 倍、1.830 秒長くなりました。ただし商品接触時間のモデルは、あてはまりの良さを示す調整済み決定係数が 0.045 と低く、著者自身があてはまりはよくないと書いています。数秒という幅であることも含めて受け取ってください。
この研究をそのまま自店に当てはめてよいですか
当てはめないでください。理由は 5 つあります。1 つ目は実験店が 1 店舗、対照店が 3 店舗であること。2 つ目はエンド売場 1 ヶ所だけの実験であること。3 つ目は2014 年のデータであること。4 つ目は、立寄率・接触率・買上率について統計的に十分な差を検出できておらず、著者自身が今後さらに検証が必要だと書いていること。5 つ目は、仕組みを調べた分析の適合度が基準を下回っており、著者があてはまりがよくないと明記していることです。自店で使えるのは数値そのものではなく、売場の行動を通過・立寄・接触・買上の 4 つに分けて数える、比べる相手を置く、商品タイプで分けて見るという 3 つの考え方のほうです。
- 三坂昇司(2015 年発表)「店頭における情緒的価値向上施策の検討 ── 既存商品の新奇性訴求が情緒的価値と売場内購買行動に与える影響」プロモーショナル・マーケティング研究 第 8 号 42-58 — 本記事の主データ。国内の学会誌に掲載された査読付きの実務研究論文。首都圏中心に 150 店舗ほどを展開するスーパーマーケットチェーンの住宅地立地 1 店舗で、主通路に面したエンド売場 1 ヶ所を借り、2014 年 9 月 30 日から 11 月 24 日の 8 週間のうち 4 週間にわたり実施された。選ぶこと自体を楽しみやすい商品としてインスタントスープ、選ぶ楽しみが少ない商品として風味調味料をそれぞれ 10 品目使い、商品構成・フェイス数・売価をそろえたうえで、既存商品の新しい使い方を訴求する掲示の有無だけを変えている。来店客 1,000 人あたりの販売金額で比較したところ、実験店の変化率 1.25 に対し同チェーンの同タイプ 3 店舗が 0.61 だったため、リフト値は 2.05 となった。選ぶ楽しみが少ない商品では 1.04 対 0.90 でリフト値 1.16 だった。売場の天井に設置したカメラで通過・立寄・接触・買上の 4 つを数えた結果、新しい使い方の訴求は立寄りに 0.785 倍という負の影響を示し、選ぶ楽しみのある売場は立寄り 1.442 倍・接触 1.715 倍だった。ただし著者は、立寄率・接触率・買上率について統計的に十分な差を検出できなかったため今後さらに検証が必要と明記している。商品を手に取っている時間は 1.518 倍(3.252 秒)、売場にいる時間は 1.286 倍(1.492 秒)長くなり、いずれも統計的に有意だった。アンケートでは訴求した週のほうが情緒的価値・新奇性受容・売場満足度が高く、情緒的価値は選ぶ楽しみが少ない商品の売場のほうが高かった。仕組みを調べた共分散構造分析では、接触から計画外の購入への係数が訴求なしの週 0.442 から訴求した週 0.690 へ上がったが、適合度指標が基準を下回っており著者があてはまりがよくないと明記している。公益財団法人流通経済研究所の研究者による個人研究。日本プロモーショナル・マーケティング学会の学会誌
- 渡辺将行(2013 年発表)「五感刺激(香り・POP)による店頭プロモーションがショッパーの購買行動に与える効果検証」プロモーショナル・マーケティング研究 第 6 号 40-55 — 同じ学会誌に掲載された査読付きの実務研究論文。国内スーパー 3 店舗で 5 週間にわたり売場に香りを流し、来店客 1,000 人あたりの販売数量で効果を測定している。本記事では、来店客 1,000 人あたりで見るという指標の考え方が国内の売場研究で共通して用いられていることを示すために参照している。日本プロモーショナル・マーケティング学会の学会誌
- 清野誠喜、上田賢悦、中嶋直美(2006 年発表)「青果物購買行動における POP の影響 ── アイカメラとプロトコルを併用した購買行動分析」農林業問題研究 42(1) 139-144 — 国内の高級スーパー 1 店舗で買物客 20 名にアイカメラを装着し、視線と発話を同時に記録した個別報告論文。商品への接触が購買につながる段階であることや、POP の内容によって効き方が変わることが示されている。本記事では、見る・手に取る・買うが別々の段階であることの裏づけとして参照している。地域農林経済学会の学会誌
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