同じ商品4つでも右端が4倍近く選ばれる ── 客に聞いて売場を決めてはいけない

同じ商品4つでも右端が4倍近く選ばれる ── 客に聞いて売場を決めてはいけない
課題

売場を変えるとき、客に聞いて確かめたくなります。ところがその答えは当てになりません。中身がまったく同じストッキングを 4 足並べて「どれがいちばん品質が良いか」を尋ねた研究では、右端が左端より 4 対 1 近い比率で選ばれました。

理由を尋ねると、位置を挙げた人は 1 人もいませんでした。全員が生地の質感や色の良さを答えています。

効果

売場でも同じことが起きます。並べ方を変えた実験で、6 か月後に 200 名へ聞き取ったところ、気づいていたのは 10% ほど だけでした。それでも売上は 6% 下がっていました。

つまり 「気づかれていない」ことと「効いていない」ことは別です。判断は聞き取りではなく、行動の記録から行ってください。

本記事は 「売り場を直す順番 ── 棚を動かす前に、売上6.15%と16.1%が取れる」 の測り方の面を掘り下げたものです。売り場に関する記事群の締めくくりにあたります。

よくある度 ★★★★★
影響度 ★★★★☆
実施しやすさ ★★★★★
先生
先生

この記事は以下のような方に読んでいただきたい内容です。

  • 売場を変える前に客の声を集めようとしている店舗経営者
  • アンケートの結果と売上が食い違って困っている店長
  • 「分かりにくい」という声にどう応えるか迷っている売り場責任者
  • 客の声を聞いたのに効果が出なかった経験のある方
  • 何を測れば売場の良し悪しが分かるのかを知りたい方

概要 ── 客の説明は当てにならない

店長
店長

売場の並べ方を変えようと思っていて。まずお客様にアンケートを取ってみようかと考えているのですが…。

先生
先生

そこは いったん止めてください。客は自分の選択に何が効いたかを知りません。知らないまま、もっともらしい理由を答えます。今日はその実証と、代わりに何を見ればよいかをお話しします。

この記事で扱う数字
  • 同一のストッキング 4 足で、右端が左端より: 4 対 1 近い比率で選ばれた
  • 理由として位置に自発的に言及した人: 1 人もいなかった
  • 売場の並べ替えに 6 か月後も気づいていた客: 200 名中 10% ほど
  • それでも動いた売上: -6%(下落は 6 か月以上持続)
✎

この記事の数字について

1 本目は 1977 年に発表された心理学の研究(被引用は 1 万件を超える)、 2 本目は 米国のドラッグストアでの売場実験です。国も年代も業態も異なるため、自店の値を示すものではありません。

受け取るべきは 「客の自己申告は、売場の判断材料にならない」という向きのほうです。 客が嘘をついているという話ではありません。本人も知らないだけです。

同じ商品 4 つでも、右端が 4 倍近く選ばれた

1977 年に発表された研究に、商業施設で通行人に協力を求めた実験があります。

実験の作り
  • 実施場所: 商業施設。「消費者調査」という体裁で通行人に依頼
  • 研究 1: 4 着の異なるナイトガウンを評価してもらう(378 名)
  • 研究 2: 4 足の「まったく同一の」ナイロンのストッキング(52 名)
  • 質問: 「どれがいちばん品質が良いか」→ 選んだら「なぜそれを選んだか」
結果
  • どちらの研究でも 左から右への顕著な位置効果が出た
  • 配列の右端の品が、大きく選ばれすぎた
  • ストッキングでは効果が大きく、右端が左端より 4 対 1 近い比率で選ばれた
  • 品はすべて同一なので、差を生んだのは位置だけ
店長
店長

中身が同じなのに、置いた場所だけで 4 倍近く差がつくのですか。

先生
先生

そうです。しかも著者ら自身が「なぜ位置効果が起きるのかは明らかでない」と書いています。研究者にも分からないことを、客が説明できるはずがありません。

位置を挙げた人は 1 人もいなかった

この研究がいまも引かれ続けている理由は、選んだ理由を尋ねた部分にあります。

理由を尋ねたときに起きたこと
  • 配列における位置に自発的に言及した被験者は、1 人もいなかった
  • 代わりに挙げられたのは 生地の質感や色の良さ(品はすべて同一だったにもかかわらず)
  • 位置の影響について直接尋ねると、ほぼ全員が否定した
  • 原文はその様子を、面接者を心配そうに見て、質問を誤解したか、狂人を相手にしていると感じているようだったと描写している
先生
先生

ここが実務にとって大事な点です。客は「分からない」とは答えません。自信を持って、筋の通った、しかし実際には効いていない理由を答えます。だから答えが返ってくること自体が、正しさの証拠にならないのです。

思い出せることと、理由を言えることは別

「聞き方を工夫すれば本音が取れるのでは」と考えたくなります。同じ研究に、その考えを試した部分があります。

単語の組み合わせを使った実験
  • 被験者に単語の組み合わせを記憶させたあと、別の課題で言葉を答えてもらった
  • (例: 「海 ── 月」を覚えさせておくと、あとで洗剤の名を挙げるときに特定の商品名が出やすくなる)
  • 8 つの手がかりすべてが、目標とする回答の確率を高めた
  • 平均して、その頻度が 10% から 20% へ倍増した
  • ところが ほぼ全員が単語の組み合わせを思い出せたにもかかわらず、それを理由として挙げることはほとんどなかった
店長
店長

覚えているのに、それが効いたとは思わないということですか。

先生
先生

そこです。「思い出せること」と「正しく理由を言えること」は別。忘れているから答えられないのではありません。覚えていても、それが自分に効いたことは分からない。だから聞き方を工夫してもこの差は埋まりません。

売場を変えても、気づいた客は 200 名中 10%

ここからは実際の店で起きたことです。米国のドラッグストアで売場の並べ方を変えた実験があります。

聞き取りの結果
  • 6 か月後に 200 名へ店頭で聞き取りを行った
  • 並べ替えに気づいていたのは 10% ほど
  • さらに 並べ替えた店と、変えていない対照店の客が、どちらも同じように「分かりにくい」と答えた
  • つまり 答えは売場の状態を反映していなかった
先生
先生

ここがいちばん厄介なところです。変えていない店の客も「分かりにくい」と答えている。つまり「分かりにくい」という声は、売場を変える理由にならない。どんな売場でも、聞けばそう返ってくるからです。

それでも売上は 6% 動いていた

気づかれていなかった。ではその並べ替えは、何も起こさなかったのか。逆でした。

気づかれていないのに動いた売上
  • メーカー別からタイプ別へ並べ替えた結果、売上は 6% 下がった
  • 下落は 6 か月以上持続した
  • それでも 気づいた客は 10% ほど
  • 著者自身が、なぜ下がったのかを説明できていないと明記している
✎

この組み合わせが結論になる

気づかれていない(10%)のに、売上は動いている(-6%)。

この 2 つが同じ実験の中で同時に観測されたことが重要です。 「客が気づいていないから効果はない」も、「客が良いと言ったから効果がある」も、どちらも成り立ちません。 効いたかどうかは、行動の記録でしか分かりません。

この実験の詳細は 「探しやすく並べ替えたら売上-6% ── 気づいた客は10%、下がったまま半年続いた」 にまとめています。

売り場のほかの研究でも同じことが起きている

この現象は 2 本の研究に限りません。売り場の研究には、同じ形の結果が繰り返し出てきます。

客が説明できないことの例
  • どこを見たか ── フェイス数の効果は 視線を集めることで完全に説明された。 客は自分がどこを見たかを言えない
  • どこを歩いたか ── 買物客の動線は 売場の半分未満の区画しかカバーしていない
  • 何を買うつもりだったか ── 買うものの 46% は店に入ってから決まる
  • 何がないと困るか ── 削られたブランドやサイズに忠実だった世帯のうち、 半数近くがそのカテゴリ内で購入を続けた
  • 何に影響されたか ── 売場で流す音楽の国と、選ばれるワインの国が一致した。 客は音楽の影響に気づいていなかった
先生
先生

最後の 1 つは「これがないと困る」という声の扱い方を変えます。そう言った客の半数近くが、実際には同じカテゴリで買い続けていました。声の強さと、行動の強さは一致しません。

聞いてよいことと、聞いても答えが出ないこと

ここまで読むと「客の声を聞くな」と受け取れますが、それは言いすぎです。分けてください。

聞いてよいこと ── 客が知っている事実
  • 何を買いに来たか
  • 見つからなかったものはあるか
  • 待たされたか
  • いずれも 本人が体験として知っていること
聞いても答えが出ないこと ── 客が知らない理由
  • なぜそれを選んだか
  • どちらの並べ方が良いか
  • この売場をどう思うか
  • いずれも 本人にも分からないこと。それでも答えは返ってくる
先生
先生

境目は 「体験したこと」か「理由」かです。体験は聞けます。理由は聞けません。そして売場の判断に要るのは、たいてい理由のほう。だから行動の記録に切り替える必要があります。

聞かずに決める 5 つの手順

① 変える前の値を控える
  • これを飛ばすと、あとで何も言えなくなる
  • 変えたあとに「良くなった気がする」と感じても、比べる相手がなければ判断できない
  • 手順の中でいちばん飛ばされやすい
② 段階に合った指標を 1 つ選ぶ
  • 在庫を出す → 空いた棚の数と「店内に在庫があったか」で分けた割合
  • 人を寄せる → ピーク時間帯の転換率(買った客 ÷ 来店した客)
  • 通らせ方を変える → その区画を通った人数
  • 棚の場所を変える → 対象商品の売上と 隣の商品の売上
  • 品揃えを削る → 客単価ではなく、同じ客の来店間隔
③ 一度に 1 か所だけ変える
  • 同時に複数を変えると、どれが効いたか分からなくなる
  • 客に聞けないぶん、切り分けは変え方でしか作れない
  • 変えない売場を 比べる相手として残すのも有効
④ 「分かりにくい」という声は、変える理由にしない
  • 研究では 変えていない店の客も同じように「分かりにくい」と答えた
  • どんな売場でも、聞けばそう返ってくる
  • ただし 「見つからなかった」は事実なので扱ってよい
⑤ 気づかれていなくても、効果を否定しない
  • 並べ替えに気づいた客は 10% ほどだったが、売上は 6% 動いた
  • 「誰も気づいていないから意味がない」は成り立たない
  • 逆に、効いていないのに気づかれることもある

段階ごとの指標の全体像は 「売り場を直す順番 ── 棚を動かす前に、売上6.15%と16.1%が取れる」 にまとめています。

30 日の進め方 ── 控える・変える・比べる

1〜10 日目 ── 控える
  • ① 変える場所を 1 か所だけ決める: 同時に複数やらない
  • ② その場所に合う指標を 1 つ選ぶ: 上の ② の対応表から選ぶ
  • ③ 10 日ぶんの現状値を記録する: これが比べる相手になる
  • ④ 変えない売場を 1 か所決める: 同じ期間、同じ指標で記録する
11〜20 日目 ── 変える
  • ⑤ 決めた 1 か所だけを変える: ほかは触らない
  • ⑥ 同じ指標を毎日記録する: 客には聞かない
  • ⑦ 変えない売場の記録も続ける: 季節や天候の影響を切り分けられる
  • ⑧ 「分かりにくい」という声が出ても記録だけする: その場で戻さない
21〜30 日目 ── 比べる
  • ⑨ 変えた売場と変えない売場を並べる: 差が出ているか
  • ⑩ 変える前の 10 日ぶんとも比べる: 2 方向で確かめる
  • ⑪ 差がなければ戻す: 戻せるうちに判断する
  • ⑫ 差が出たら、次の 1 か所へ進む: 効いた形を横に広げる

① が全体の要です。変える前の値を控えていないと、あとから何をどう言っても推測になります。そして推測を埋めるために、つい客に聞いてしまう。記録しておけば、聞く必要がありません。

✎

参考研究・論点

  • リチャード・ニスベット、ティモシー・ウィルソン(1977 年発表) ── 商業施設で通行人に、4 着の異なるナイトガウン(378 名)と 4 足の同一のナイロンのストッキング(52 名)を評価してもらった。左から右への顕著な位置効果があり、ストッキングでは右端が左端より 4 対 1 近い比率で選ばれた。理由を尋ねたとき、位置に自発的に言及した被験者は 1 人もおらず、直接尋ねるとほぼ全員が否定した。同論文の別の実験では、記憶させた単語の組み合わせが目標とする回答の頻度を 10% から 20% へ倍増させたが、ほぼ全員が組み合わせを思い出せたにもかかわらず理由として挙げなかった
  • ザビエル・ドレーズ、スティーブン・ホック、メアリー・パーク(1994 年発表) ── 米国のドラッグストアで売場の並べ方を変えた実験。6 か月後に 200 名へ店頭で聞き取ったところ、並べ替えに気づいていたのは 10% ほど で、対照店の客も同じように「分かりにくい」と答えた。それでも売上は 6% 下がり、下落は 6 か月以上続いた。著者自身がなぜ下がったのかを説明できていないと明記している
  • エイドリアン・ノース、デイビッド・ハーグリーブス、ジェニファー・マッケンドリック(1999 年発表) ── スーパーのワイン売場でフランスの音楽とドイツの音楽を日替わりで流したところ、流した音楽の国と選ばれたワインの国が一致した。客は音楽の影響に気づいていなかった。本記事では具体的な数値は用いていない(原文を取得できなかったため)

まとめ

この記事のポイント
  • まったく同じストッキング 4 足で、右端が左端より 4 対 1 近い比率で選ばれた
  • 理由として位置を挙げた被験者は 1 人もいなかった。 全員が生地の質感や色の良さを答えた
  • 直接尋ねると ほぼ全員が位置の影響を否定した
  • 客は「分からない」とは答えない。自信を持って、筋の通った、しかし効いていない理由を答える
  • 思い出せることと、正しく理由を言えることは別。聞き方を工夫しても埋まらない
  • 売場の並べ替えに 6 か月後も気づいていた客は 200 名中 10% ほど
  • 変えていない対照店の客も、同じように「分かりにくい」と答えた
  • それでも 売上は 6% 下がっていた(6 か月以上持続)
  • つまり 「気づかれていない」ことと「効いていない」ことは別
  • 聞いてよいのは体験(何を買いに来たか・見つからなかったか・待たされたか)。 聞いても答えが出ないのは理由
  • 手順は ①変える前の値を控える ②段階に合う指標を1つ選ぶ ③一度に1か所だけ変える ④「分かりにくい」を変える理由にしない ⑤気づかれていなくても効果を否定しない

今週できることは 1 つだけです。次に売場を変えるときの指標を 1 つ決めて、変える前の 10 日ぶんを記録しておくこと。それだけで、あとから客に聞く必要がなくなります。

※ 1 本目は 1977 年に発表された心理学の研究で、商業施設で通行人に協力を求めたものです。2 本目は米国のドラッグストアでの売場実験です。国も年代も業態も異なるため、自店の値を示すものではありません。「4 対 1 近い比率」は原文の記述をそのまま用いており、各選択肢の内訳の割合は原文に示されていないため記載していません。「10% ほど」は 200 名への店頭聞き取りの結果です。音楽とワインの研究については原文を取得できなかったため、本記事では具体的な数値を用いず、結果の向きだけを記載しています。なお本記事は、客が嘘をついていると主張するものではありません。本人にも分からないというのが研究の示すところです。自店では、変える前の値を控え、変えない売場と並べて比べながら確かめてください。

よくある質問

客に聞けば、売場の良し悪しは分かるのではないですか?

分からないことが実証されています。商業施設で通行人に、中身がまったく同じナイロンのストッキングを 4 足見せて「どれがいちばん品質が良いか」を尋ねた研究があります。結果は右端が左端より 4 対 1 近い比率で選ばれました。品はすべて同一なので、差を生んだのは位置だけです。

ところが理由を尋ねたところ、位置に自発的に言及した人は 1 人もいませんでした。全員が生地の質感や色の良さを理由に挙げています。しかも位置の影響について直接尋ねると、ほぼ全員が否定しました。つまり客は自分の選択に何が効いたかを知らないまま、もっともらしい理由を答えます。

売場を変えたら、客は気づいてくれますか?

気づかれません。米国のドラッグストアで売場の並べ方を変えた実験では、6 か月後に 200 名へ店頭で聞き取ったところ、並べ替えに気づいていたのは 10% ほど だけでした。しかも並べ替えた店と、変えていない対照店の客が、どちらも同じように「分かりにくい」と答えています。つまり答えは売場の状態を反映していませんでした。

それでも売上は 6% 下がり、下落は 6 か月以上続いています。気づかれていないことと、効いていないことは別です。著者自身も、なぜ下がったのかを説明できていないと書いています。

客が理由を答えられないのは、質問の仕方が悪いからではないですか?

それも一因ですが、それだけではありません。同じ研究には、記憶した単語の組み合わせがあとの回答に影響した実験があります。8 つの手がかりすべてが目標とする回答の確率を高め、平均でその頻度が 10% から 20% へ倍増しました。

ところが被験者はほぼ全員が単語の組み合わせを思い出せたにもかかわらず、それを理由として挙げることはほとんどありませんでした。つまり手がかりを覚えていても、それが自分の回答に効いたことは分かりません。思い出せることと、正しく理由を言えることは別だということです。聞き方を工夫しても、この差は埋まりません。

では、売場の良し悪しは何で判断すればよいのですか?

行動の記録です。段階によって見る数字が変わります。棚に出ていない在庫を出す段階なら空いた棚の数と、その商品が店内にあったかどうかで分けた割合。人を寄せる段階ならピーク時間帯の転換率、つまり来店した客のうち買った客の割合。

通らせ方を変える段階ならその区画を通った人数。棚の場所を変える段階なら対象商品の売上と隣の商品の売上。品揃えを削る段階なら客単価ではなく同じ客の来店間隔です。いずれも客に尋ねる必要がなく、店の記録から出せます。変える前の値を控えておくことが要点です。

客の声はまったく聞かなくてよいのですか?

そうではありません。聞いてよいことと、聞いても答えが出ないことを分けてください。聞いてよいのは事実です。何を買いに来たか、見つからなかったものはあるか、待たされたか。これらは客が知っていることです。

いっぽう聞いても答えが出ないのは、なぜそれを選んだか、どちらの並べ方が良いか、この売場をどう思うかです。研究が示したのは後者にあたる質問への答えが当てにならないということで、前者まで否定するものではありません。事実を聞き、理由は行動の記録から読むという分け方をしてください。

📚 この記事の参考研究・一次資料

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