品揃えを増やすと迷う客の選び直しが38% ── 目当てが決まった客は13%、正解が逆転する
「品揃えは多いほうがよいのか、少ないほうがよいのか」。この問いに 1 つの答えを出そうとすると必ず外れます。
消費者研究の国際学術誌に載った 4 実験によると、欲しいものを言葉にできない客は、品揃えを増やすと選び直しが 9% から 38% へ増えました。迷いが 4 倍以上に膨らんだことになります。
ところが 欲しいものを言葉にできる客では、まったく逆でした。品揃えを増やすと選び直しが 27% から 13% へ減っています。
同じ商品・同じ売場で反転します。つまり 売場を客のタイプで分けられれば、品揃えを増やす側と絞る側の両方が取れるということです。
当サイトではすでに 品揃えを削ると購入間隔が 25% 延びるという記事で 品揃えを削る側を扱いました。本記事は 削るべき相手と、増やすべき相手を分けるという別の軸を扱います。
この記事は以下のような方に読んでいただきたい内容です。
- 品揃えを増やすか絞るかで判断が止まっている店舗経営者
- 「選択肢は少ないほうが売れる」を鵜呑みにしかけている店長
- 絞ったのに売上が戻らなかった売り場責任者
- 目的買いの客と、ぶらぶら見る客が混ざる売場を持つ方
- 品揃えの判断を、感覚ではなく客のタイプで決めたい方
概要 ── 品揃えの正解が客のタイプで反転する
品揃えを絞ったほうが売れると聞いて削ったんです。でも思ったように戻らなくて。増やすべきだったんでしょうか。
その問いの立て方だと、どちらを選んでも半分は外れます。品揃えの正解は、客が欲しいものを決めているかどうかで逆転するという研究があるからです。4 つの実験で確かめられています。
- 欲しいものを言葉にしなかった客の選び直し: 小さい品揃え 9% → 大きい品揃え 38%
- 言葉にした客の選び直し: 小さい品揃え 27% → 大きい品揃え 13%
- 大きい品揃えでの差: 38% 対 13%(統計的に有意)
- 自然に目当てを持っていた客との比較: 大きい品揃えで 11% 対 35%
- 自分の言葉で書かせた実験: 大きい品揃えで 14% 対 24%
- 決めたあとの自信(10 点満点): 大きい品揃えで 7.58 対 7.21、小さい品揃えで 7.02 対 7.54
この記事の数字について
主データは 消費者研究の国際学術誌に載った原著論文で、原文を取得して 4 実験ぶんの数値を照合しています。
ただし 被験者は全員大学生で、実店舗の買物客ではありません。 測っているのも 選び直す確率・自信・難しさであって、売上ではありません。
また 小さい品揃え側の差は、4 実験のいずれでも統計的に有意になっていません。この違いは本文でも都度示します。
4 つの実験で何を測ったのか
この研究の強みは 同じ結論を、条件を変えた 4 つの実験で繰り返し確かめているところにあります。
- 実験 1: 88 名/板チョコ/4 種類と 16 種類を比べた
- 実験 2: 75 名/板チョコ/同じ 4 種類と 16 種類。言葉にさせ方を 2 通りに変えた
- 実験 3: 167 名/カリブ海旅行・ソファ・冷蔵庫・パソコンケース/6 種類と 24 種類
- 実験 4: 168 名/同じ 4 カテゴリ/6 種類と 24 種類。671 回ぶんの選択を集めた
測っているものは 4 実験に共通しています。選んだ直後に、別のものへ乗り換える機会を与えたときに乗り換えた割合です。本記事ではこれを 「選び直し」 と呼びます。
- 選んだけれど、その選択に固まっていない
- 売場でいえば 手に取ったものを戻す・買わずに帰る・別の店で買い直すに近い状態
- 逆に 選び直しが低い = その選択で納得している
売れたかどうかではなく、選択が固まったかどうかを測っています。ここは正確に受け取ってください。売上が何 % 動くという研究ではありません。ただ 固まらない選択は、売場では買われないほうへ流れます。
9% 対 38%、27% 対 13% ── 反転の中身
実験 1 では、被験者を 2 つに分けました。片方には、選ぶ前に「自分の理想の板チョコ」を書かせます。カカオの濃さ・種類・味・ナッツの有無という項目それぞれについて、いちばん好ましいものを選ばせ、重要な順に並べさせました。もう片方には 何も書かせずに、いきなり選ばせます。
- 理想を書かなかった客: 小さい品揃え 9% → 大きい品揃え 38%
- 理想を書いた客: 小さい品揃え 27% → 大きい品揃え 13%
- 大きい品揃えでの差は統計的に有意(38% 対 13%、χ²(1) = 3.88、p < .05)
- 小さい品揃えでの差(9% 対 27%)は、有意になっていない
同じ商品なのに、書かせただけでここまで変わるんですか。
変わりました。しかも 向きが逆になっています。品揃えを増やすことが、片方には毒で、もう片方には薬だった。これが「多いほうがよいか」に答えが出ない理由です。
なお 品揃えの操作そのものは成功しています。被験者は 16 種類の側を「多様だ」と正しく感じており(F(1, 87) = 84.75、p < .001)、どちらも極端だとは受け取られていません。現実の売場にありうる幅で起きた反転だということです。
なぜ逆転するのか ── 物差しを持っているかどうか
著者の説明は、客が向き合っている作業が、そもそも別物だというものです。
- 並んでいるものを見比べながら、自分の好みをその場で作っている
- だから 選択肢が増えるほど、比べる組み合わせが増える
- 結果として 作った好みが、その場に並んでいたものに引っぱられる
- 売場を離れると その好みが崩れる = 選び直しが増える
- すでに持っている物差しに、いちばん近いものを探している
- だから 選択肢が増えるほど、物差しに近いものが見つかりやすくなる
- 結果として 「これが自分の欲しかったものだ」と確信できる
- 逆に 選択肢が少ないと、物差しに合うものが無く妥協することになる
言い換えると、決まっている客にとって、少ない品揃えは「妥協させる装置」なんです。絞れば絞るほど、その客の理想から遠ざかる。これが 27% 対 13% の正体です。
この 「客はその場で好みを作っている」という前提は、当サイトの 客に聞いて売場を決めてはいけないという記事とも重なります。その場で作られた好みは、客自身にも説明できません。
残る 3 実験でも同じ形が出た ── 11% 対 35%
この反転が実験 1 だけの偶然でないことは、条件を変えた 3 つの実験で確かめられています。まず実験 2 は 「理想を書かせたから効いたのか、それとも何か書かせれば効くのか」を切り分けています。
- 取捨選択させた客: 何かを諦めて何かを取るという判断まで書かせた
- 取捨選択させなかった客: 好みは書かせたが、諦める判断はさせなかった
- 取捨選択させなかった客: 小さい品揃え 19% → 大きい品揃え 45%
- 取捨選択させた客: 小さい品揃え 31% → 大きい品揃え 17%
- 大きい品揃えでの差は有意(17% 対 45%、χ²(1) = 4.00、p < .05)
- 反転そのものも有意(χ²(1) = 4.02、p < .05)
- 小さい品揃えでの差(31% 対 19%)は有意になっていない
好みを書かせるだけでは足りない、ということですか。
そうです。「これも好き、あれも好き」で止まっている客は、決まっていない側に入ります。何を諦めるかまで決まって、はじめて物差しになる。接客の設計としては、ここが効きどころです。
売場でいえば、「どんなものをお探しですか」だけでは足りないということになります。「値段と使い心地なら、どちらを優先されますか」まで聞けたときに、客は決まっている側へ移ります。
自然に目当てを持っている客でも反転した
ここまでの 2 実験は 実験する側が客に理想を書かせています。売場ではそんなことはできません。実験 3 はそこに答えています。
- 167 名が対象。商品は カリブ海旅行・ソファ・冷蔵庫・パソコンケースの 4 カテゴリ
- 品揃えは 6 種類と 24 種類
- 理想の明確さを得点にして、中央値で 2 つに分けた(明確 81 名/不明確 86 名)
- つまり 客が自然に持っている状態のまま分類した
- 大きい品揃え: 理想が明確 11% / 不明確 35%(χ²(1) = 6.09、p < .05)
- 小さい品揃え: 理想が明確 21% / 不明確 15%(有意でない)
- 反転そのものは有意(χ²(1) = 5.16、p < .05)
- 理想が不明確な客だけを見ると: 小さい品揃え 15% → 大きい品揃え 35%(χ²(1) = 4.19、p < .05)
- 4 つの商品カテゴリをまたいで一貫していた
ここがいちばん重要です。実験で作り出した状態ではなく、客がもともと持っている状態で反転した。しかも 旅行からパソコンケースまで、カテゴリをまたいで同じ向きでした。
実験 4 では 理想を自分の言葉で自由に書かせる方式に変えています。項目を指定せず、「あなたの理想のソファを書いてください」と頼むだけです。それでも 大きい品揃えで 14% 対 24%(χ²(1) = 4.59、p < .05)、小さい品揃えでは 19% 対 17% で差なしという同じ形が出ました。
決めたあとの自信も逆に動いた
実験 4 は 選び直しだけでなく、客の主観も測っています。672 回ぶんの選択について、決めたことへの自信を 10 点満点で聞きました。
- 大きい品揃え: 理想あり 7.58 / 理想なし 7.21(F(1, 480) = 3.84、p = .05)
- 小さい品揃え: 理想あり 7.02 / 理想なし 7.54(F(1, 480) = 7.11、p < .01)
- 反転は有意(F(1, 480) = 10.69、p < .005)
選び直しと同じ形が、自信でも出ています。理想を持っている客は、大きい品揃えのほうが自信を持って決め、小さい品揃えでは自信が下がりました。
- 理想を言葉にしなかった客: 6.04
- 理想を言葉にした客: 5.54
- → 理想を持っている客のほうが、決めるのが楽だった(F(1, 480) = 4.95)
自信が下がると、店としては何が困るんでしょうか。
その場で買わずに 「もう少し考えます」になります。そして 他店で買われます。売場で測れるのは、この「持ち帰り検討」の多さです。減っているなら、その客層に品揃えが合っています。
「選択肢は少ないほうがよい」で止めてはいけない
売場の品揃えを語るとき、ほぼ必ず引かれるのが ジャムの試食台の実験です。
- 24 種類並べたとき: 立ち寄り 60%、そのうち購入 3%
- 6 種類にしたとき: 立ち寄り 40%、そのうち購入 30%
- 正味の購入率は 1.8% 対 12%
この数字が 「選択肢は少ないほうが売れる」という一般法則として広まりました。しかし そこで止めると外します。理由が 2 つあります。
- この現象を多数の研究で統合したメタ分析では、全体の平均効果がほぼゼロだった。条件次第で正にも負にもなる
- 今回の研究は、その条件の 1 つを名指ししている。 理想が明確な客では、絞ることが逆効果になる(11% 対 35% / 13% 対 38%)
ジャムの実験は 試食台での実験であって、店全体の品揃えを削った実験ではありません。しかも その場で好みを作る客だけを見ている。目当てが決まってジャム売場へ来た客は、そもそも試食台で足を止めません。
当サイトでは 品揃えを削ると購入間隔が 25% 延びるという記事で、削ることの副作用を扱いました。そちらは 売上ではなく来店回数が減るという話でした。今回の研究と合わせると、絞る判断は、相手を選ばずにやると二重に効きます。
この研究の性質と限界
そのまま自店に持ち込めない点を先に置きます。
- 大きい品揃えでの反転は、4 実験のうち 3 実験で統計的に有意(38%/13%、17%/45%、11%/35%、14%/24%)
- 理想の測り方を 3 通り変えても同じ向きが出た
- 商品カテゴリをまたいでも一貫していた(板チョコ・旅行・ソファ・冷蔵庫・パソコンケース)
- 選び直しだけでなく 自信・難しさでも同じ形が出た
- 小さい品揃え側の差は、4 実験のいずれでも有意になっていない。方向がそろっているだけ
- 被験者は全員大学生。実店舗の買物客ではない
- 測っているのは選び直す確率・自信・難しさで、売上ではない
- 実験 1・2 の板チョコは 写真で提示された(実物ではない)
- 論文自身が対象を 「ある程度の目新しさがある選択」「客が十分な知識を持たず、判断の物差しをその場で作らなければならない場面」に限定している
最後の 1 点が実務では効きます。毎回同じものを習慣で買う商品は、最初から対象外です。効くのは、客が迷いうるカテゴリだけ。そこに絞って手を付けてください。
そして 確かなのは大きい品揃え側です。「決まっていない客に大きい品揃えを見せると、選択が固まらない」ほうから直すのが、外れにくい順番になります。この順番の考え方は 売り場を直す順番 にまとめてあります。
売場に落とす 5 つの手順
- 客が初めて買う・選び方を店員に聞かれる・比較検討が起きるカテゴリ
- 習慣で毎回同じものを買うカテゴリは外す(研究の対象外)
- まず 1 カテゴリだけ。同時に複数触ると何が効いたか分からなくなる
- 決まっている側: まっすぐ棚へ向かう・銘柄を指定して聞く・手に取ってすぐレジ
- 決まっていない側: 棚の前で立ち止まる・選び方から聞く・手に取って戻す
- 1 日 30 分でよいので、正の字で数える。どちらが多い棚なのかを先に知る
- 在庫を削るのではなく、一度に目に入る数を減らす
- 用途別・場面別に 区切りを入れて、一度に見比べる範囲を狭める
- 研究では 4 種類と 6 種類が小さい品揃えとして使われた
- 削ると来店回数が減る副作用があるため、品目そのものは残したまま見せ方で絞る
- ここで絞ると、その客の理想から遠ざかる(27% 対 13% の逆側)
- 探しているものへ最短でたどり着く並べ方にする
- 売れ行きが低い品目でも、指名で買われているなら残す
- 実験 2 では 何を諦めるかまで決めた客だけが、決まっている側へ移った
- 「どんなものをお探しですか」で止めない
- 「値段と使い心地なら、どちらを優先されますか」まで聞く
- これは 品揃えを触らずにできる唯一の手
30 日の進め方 ── 分ける・試す・比べる
- ① 迷いうるカテゴリを 1 つ決める: 比較検討が起きている棚
- ② その棚の客を 2 つに分けて数える: 1 日 30 分・正の字でよい
- ③ 「持ち帰り検討」の数も数える: 手に取って戻した回数
- ④ いま何品目を一度に見せているか数える: 棚の前に立ったとき目に入る数
- ⑤ 決まっていない客が多いなら、見せる数を絞る: 在庫は削らない
- ⑥ 決まっている客が多いなら、品目は触らず並びだけ直す: 探しやすさを上げる
- ⑦ 接客で「何を優先するか」を聞く形に変える: 全員に同じ聞き方をする
- ⑧ 変えたのは 1 つだけにする: 同時に複数変えない
- ⑨ 手に取って戻した回数を、前後で比べる: ここが減っていれば効いている
- ⑩ そのカテゴリの売上と客数を分けて出す: 客数が変わっていないのに売上が動いたか
- ⑪ 効かなければ、客の分け方が違っていた可能性を疑う: 逆の手を試す
- ⑫ 効いたら、隣のカテゴリへ広げる: 1 つずつ
この 30 日で確かめていること
売上そのものではなく、選択が固まったかどうかを見ています。研究が測っているのがそこだからです。
手に取って戻す回数が減ったなら、その棚の客層に品揃えの見せ方が合ったということになります。 売上は、そのあとから動きます。
まとめ
- 品揃えの正解は、客が欲しいものを決めているかどうかで逆転する
- 欲しいものを言葉にしなかった客の選び直しは 小さい品揃え 9% → 大きい品揃え 38%
- 言葉にした客は逆で 小さい品揃え 27% → 大きい品揃え 13%。 大きい品揃えでの差は統計的に有意
- 言葉にさせ方を変えた実験でも同じ形(19% → 45% と 31% → 17%)。 何を諦めるかまで決めた客だけが、決まっている側へ移った
- 客が自然に持っている状態で分けても反転した(大きい品揃えで 11% 対 35%)。 4 つの商品カテゴリをまたいで一貫
- 自分の言葉で書かせた実験でも 14% 対 24%
- 決めたことへの自信も逆に動いた(大きい品揃えで 7.58 対 7.21、小さい品揃えで 7.02 対 7.54)
- 「選択肢は少ないほうが売れる」は一般法則ではない。 メタ分析では平均効果がほぼゼロで、条件次第で正にも負にもなる
- 小さい品揃え側の差は、4 実験のいずれでも有意になっていない。 確かなのは大きい品揃え側
- 被験者は大学生で、測っているのは売上ではない。 習慣で買う商品は最初から対象外
- 手順は ①迷いうるカテゴリを 1 つ選ぶ ②客を 2 つに分けて数える ③決まっていない客の棚は見せる数を減らす ④決まっている客の棚は削らない ⑤接客で「諦める側」を聞く
今週できることは 1 つだけです。迷いが起きている棚の前に 30 分立って、まっすぐ手に取る客と、手に取って戻す客を数えてみること。どちらが多いかが分かれば、その棚を増やすのか絞るのかが決まります。品揃えを触るのはそのあとで構いません。
※ 主データは消費者研究の国際学術誌に掲載された原著論文で、原文を取得して 4 実験ぶんの数値を照合しています。ただし被験者は全員が単一の大学の学生であり、実店舗の買物客ではありません。測っている指標は、選んだ直後に別のものへ乗り換えた割合と、決めたことへの自信、決めることの難しさであって、売上ではありません。実験 1 と実験 2 の板チョコは写真で提示されたもので、実物ではありません。また大きい品揃えでの差は 4 実験のうち 3 実験で統計的に有意でしたが、小さい品揃えでの差はいずれの実験でも有意になっておらず、方向がそろっているだけです。論文自身が対象を「ある程度の目新しさがある選択」「客が十分な知識を持たず、判断の物差しをその場で作らなければならない場面」に限定しており、習慣で毎回同じものを買う商品は対象外です。ジャムの試食台の数値とメタ分析の記述は、いずれも別の研究から引用したものです。自店では、迷いが起きているカテゴリを 1 つ選び、手に取って戻す回数を変更の前後で記録しながら確かめてください。
よくある質問
品揃えは多いほうがよいのですか、少ないほうがよいのですか
客のタイプによって逆になります。消費者研究の国際学術誌に載った 4 つの実験によると、欲しいものの中身を言葉にできていない客は、品揃えを 4 種類から 16 種類に増やすと、選んだあとに選び直す割合が 9% から 38% へ増えました。いっぽう欲しいものを言葉にできている客は逆で、27% から 13% へ減っています。同じ商品・同じ売場でこの反転が起きました。つまり品揃えの正解は 1 つではなく、その売場に来る客がどちらのタイプかで決まります。ただし研究の対象は大学生であり、測っているのは選び直す確率であって売上ではありません。
「選択肢は少ないほうが売れる」と聞きましたが違うのですか
条件付きで正しい、というのが現時点の理解です。ジャムを 24 種類並べたときの購入が 3%、6 種類のときが 30% だった実験は有名ですが、この現象を多数の研究で統合したメタ分析では、全体の平均効果がほぼゼロでした。条件次第で正にも負にもなります。今回の研究はその条件の 1 つを名指ししたもので、欲しいものが決まっている客では品揃えが多いほうが選択が固まりました。絞ることが逆効果になる客層が存在するということです。一般法則として自店に持ち込まないでください。
「欲しいものが決まっている客」かどうかは、どう見分けるのですか
研究では 3 つの方法で分けています。1 つ目は実験する側が理想の組み合わせを書かせる方法、2 つ目は客が自然に持っている理想の明確さを得点にして中央値で分ける方法、3 つ目は自分の言葉で自由に書かせる方法です。3 つとも同じ方向の結果が出ました。売場では実験のように測れませんが、代わりになるのは行動です。まっすぐ棚へ向かう、銘柄を指定して聞く、同じものを繰り返し買う。こうした客は目当てが決まっている側に寄ります。逆に棚の前で立ち止まる時間が長い、店員に選び方から聞く、初めて買うカテゴリという客は決まっていない側です。
小さい品揃えのほうがよい、という側の数字は信頼できますか
大きい品揃え側ほどは強くありません。この研究では、大きい品揃えでの差は 4 つの実験のうち 3 つで統計的に有意でしたが、小さい品揃えでの差は、有意になった実験が 1 つもありませんでした。方向がそろっているだけです。著者もその差を認めたうえで報告しています。つまり確かなのは「欲しいものが決まっていない客に大きい品揃えを見せると選択が弱くなる」ほうであり、「決まっている客に小さい品揃えを見せると弱くなる」ほうは傾向どまりです。売場を変えるなら、確かなほうから手を付けてください。
この研究をそのまま自店に当てはめてよいですか
当てはめないでください。理由は 4 つあります。1 つ目は被験者が全員大学生で、実店舗の買物客ではないこと。2 つ目は測っているのが選び直す確率と自信と難しさであって、売上ではないこと。3 つ目は実験 1 と 2 の板チョコが写真で提示されていること。4 つ目は、論文自身が対象を「ある程度の目新しさがある選択」「客が十分な知識を持たず、判断の物差しをその場で作らなければならない場面」に限定していることです。毎回同じものを習慣で買う商品は最初から対象外です。自店で使えるのは数値そのものではなく、客のタイプで品揃えの正解が分かれるという枠組みのほうです。
- アレクサンダー・チェルネフ(2003 年発表)「多いことが少ないことになり、少ないことが多いことになるとき ── 理想の明確さと品揃えが客の選択に与える影響」消費者研究の国際学術誌 30(2) 170-183 — 本記事の主データ。米国の大学で行われた 4 つの実験(88 名・75 名・167 名・168 名)で、品揃えの大小が選択の強さに与える影響が、客が理想の組み合わせを言葉にできているかどうかで逆転することを示した原著論文。理想を言葉にしなかった客の選び直しは小さい品揃え 9% に対し大きい品揃え 38%、言葉にした客は 27% に対し 13% で、大きい品揃えでの差は有意(χ²(1) = 3.88、p < .05)。言葉にさせ方を変えた実験 2 では 19% と 45%、31% と 17%(大きい品揃えでの差は χ²(1) = 4.00、p < .05)。客が自然に持っている理想の明確さで分けた実験 3 では、大きい品揃えで 11% 対 35%(χ²(1) = 6.09、p < .05)となり、旅行・ソファ・冷蔵庫・パソコンケースの 4 カテゴリをまたいで一貫した。自分の言葉で書かせた実験 4 でも 14% 対 24%(χ²(1) = 4.59、p < .05)。決めたことへの自信は大きい品揃えで 7.58 対 7.21、小さい品揃えで 7.02 対 7.54 と反転した(交互作用 F(1, 480) = 10.69、p < .005)。小さい品揃え側の差は 4 実験のいずれでも有意になっていない。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の研究
- シーナ・アイエンガー、マーク・レッパー(2000 年発表)「選択肢がやる気を削ぐとき」 — 高級スーパーの試食台にジャムを 24 種並べたときは立ち寄り 60% で購入 3%、6 種のときは立ち寄り 40% で購入 30%。正味の購入率は 1.8% 対 12%。試食台での実験であり、店全体の品揃えを削った実験ではない。本記事では「選択肢は少ないほうが売れる」という通説の出どころとして参照している。人格・社会心理学の国際学術誌
- ベンヤミン・シャイベヘネ、ライナー・グライフェンダー、ピーター・トッド(2010 年発表)「選択肢は多すぎることがあるのか ── メタ分析による検討」 — 選択肢が多すぎると選べなくなるという現象を多数の研究で統合したメタ分析。全体の平均効果はほぼゼロで、条件次第で正にも負にもなる。本記事では、通説を一般法則として売場に持ち込んではいけないことの裏づけとして参照している。消費者研究の国際学術誌
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