スタンプカードは2個押して渡すと達成率19%→34% ── 来店間隔-20%と、常連には効かない理由

スタンプカードは2個押して渡すと達成率19%→34% ── 来店間隔-20%と、常連には効かない理由
課題

スタンプカードを配っているのに、ほとんどが使い切られないまま消えていく ── 洗車店で行われた関連研究(2006 年)では、枠が 8 個で押印ゼロのカードを配ったとき、特典まで到達した人は 19% にとどまりました。5 人に 4 人が途中で離れたことになります。

さらに、配る相手を間違えると原資だけが減ります。コンビニのポイント制度を 2 年追った関連研究(2007 年)では、もともと多く買っていた層は特典を最も多く受け取ったのに、来店頻度は開始時から変わりませんでした。

効果

変えるのは印刷の内容だけです。必要な回数は 8 回のままで、枠を 10 個にして 2 個をあらかじめ押して渡すと、特典まで到達した人は 34% に増えました。19% → 34%、+15 ポイントです。カフェで行われた別の関連研究(2006 年)でも、10 回の達成が 16 週から 11 週に縮んでいます。

しかも来店の速さそのものが変わります。同じ研究では、特典に近づくほど来店間隔が 20%(0.7 日)縮みました。カードは記録用紙ではなく、来店の間隔を動かす道具です。

「枠は 5 個か 10 個がいい」という助言はよく見かけます。ただしなぜその数なのかの根拠までは示されていないことがほとんどです。本記事は、枠の数・配る相手・渡し方の 3 つを、実店舗で行われた実験の数字から決め直すための資料です。

よくある度 ★★★★★
影響度 ★★★★☆
実施しやすさ ★★★★★
先生
先生

この記事は以下のような方に読んでいただきたい内容です。

  • スタンプカードを配っているが、戻ってくる枚数が少ないと感じている店長
  • 枠の数を何個にすればいいのか、根拠を持って決めたい店舗経営者
  • ポイント制度の原資が、常連にばかり使われている気がしている方
  • アプリやランク制への切り替えを検討している売り場責任者
  • 予算をかけずに再来店を増やす打ち手を探している接客責任者

概要 ── 達成率 19%→34%、来店間隔 -20%

店長
店長

スタンプカードは配っています。ただ、使い切って持ってくる方はほとんどいなくて…。効果があるのかどうか、正直よく分かっていません。

先生
先生

使い切られない前提で設計されていないだけかもしれません。実店舗で行われた実験が 2 つあって、どちらもカードの印刷を変えただけで結果が変わっています。しかも必要な来店回数は 1 回も減らしていません。

この記事で扱う 4 つの数字
  • 使い切って特典に到達した人: 19% → 34%(+15 ポイント、洗車店・カード 300 枚・9 か月)
  • 10 回の達成にかかった期間: 16 週 → 11 週(中央値は 12 週 → 8 週、カフェでの実験)
  • 来店間隔: 特典に近づくほど 20%(0.7 日)縮む(カフェ・約 10,000 回の購買)
  • もともと多く買っていた層の来店頻度: 変わらなかった(コンビニ・1,000 人・2 年)

最初の 3 つは「どう作るか」の話で、最後の 1 つは「誰に配るか」の話です。作り方を直しても、配る相手を間違えれば原資だけが減ります。この記事は両方を順に扱います。

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「来店間隔 -20%」の読み方

これは次に来るまでの日数が短くなるという意味です。来店回数が 20% 減るのではありません。カードが進むほど間隔が詰まり、結果として同じ期間内の来店回数は増えます。本記事では、この向きを取り違えないよう「間隔」と「回数」を書き分けています。

洗車店の実験 ── 必要な回数は同じ 8 回なのに、15 ポイント違った

消費者行動の国際学術誌に載った関連研究(2006 年)は、実在する洗車店でカードを 300 枚配る実験を行いました。配ったカードは 2 種類で、どちらを受け取るかは無作為に決められています。

配られた 2 種類のカード(無料洗車まで、どちらも 8 回)
  • A: 枠が 8 個・押印ゼロ ── ふつうのスタンプカード。ここから 8 回で無料
  • B: 枠が 10 個・2 個は押した状態 ── 残り 8 枠。ここからやはり 8 回で無料
  • 違いはこれだけ: 必要な洗車の回数は、どちらも 8 回でまったく同じ
  • 追跡期間: 約 9 か月
店長
店長

同じ 8 回なら、結果も同じになりそうですが…。

先生
先生

そう思いますよね。ところがA は 19%、B は 34%でした。使い切って特典に到達した人の割合です。+15 ポイント、もとの水準に対してはおよそ 8 割増しにあたります。達成までの期間も B のほうが短かったと報告されています。

研究者はこれを「もう始まっている」という認識の効果として説明しています。ゼロから 8 歩の課題を、10 歩のうち 2 歩まで来ている課題に置き換えると、人は最後まで進みやすくなるということです。

この効果について、研究が確かめている 3 点
  • 効果の源は「もらった 2 個を無駄にしたくない」ではない ── 進んでいるという認識そのものにある
  • 説明の仕方が効き方を変える ── 理由を添えずに 2 個押すと効きが弱まる
  • 進み具合をどう見せるかも効き方を変える ── 残りが見えるか、進んだ分が見えるかで受け取り方が変わる

店舗で使うときに大事なのは 2 番目です。黙って 2 個押して渡すのでは足りません。「本日ご来店のお礼に 2 個お付けしています」のように、なぜ押してあるのかを一言添えて渡してください。

カフェでも同じ ── 10 回の達成が 16 週から 11 週に

洗車店の結果が偶然でないことは、別の店・別の指標で確かめられています。市場調査の国際学術誌に載った関連研究(2006 年)は、大学構内のカフェで同じ操作を試しました。

カフェでの実験(どちらも必要な購買は 10 回)
  • A: 枠が 10 個・押印ゼロ ── ここから 10 回で 1 杯無料
  • B: 枠が 12 個・2 個は押した状態 ── 残り 10 枠。やはり 10 回で 1 杯無料
  • 10 回を達成するまでの期間: A は 16 週、B は 11 週
  • 中央値でも: A は 12 週、B は 8 週
  • 1 回の来店で押せるスタンプ: 1 個まで(まとめ押しは不可)
先生
先生

洗車店は「使い切る人の割合」、カフェは「使い切るまでの期間」を見ています。違う店で、違う指標で、同じ向きの結果が出たわけです。1 本の研究だけを根拠にするより、ずっと確からしくなります。

店舗にとって重要なのは、期間が縮むことがそのまま来店頻度の上昇を意味する点です。同じ 10 回でも、16 週かかるか 11 週で終わるかで、その期間の売上は変わります。

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この研究が示した、もう一つの注意点

同じ研究では、見かけの進み具合を作っても、制度に入るかどうかの意欲は変わりませんでした。つまりこの方法は「配る前の集客」には効きません。カードを受け取ってもらった後、その人が最後まで進むかどうかに効く設計です。新規客を呼ぶ打ち手と混同しないでください。

近づくほど速くなる ── 来店間隔が 0.7 日(20%)縮む

カフェの研究はもう一つ、実際の購買記録そのものを分析しています。使い切られたカード 949 枚・約 10,000 回の購買が対象です。

店長
店長

スタンプが貯まってくると、お客様の来店が早くなる感覚はあります。あれは気のせいではないんですね。

先生
先生

気のせいではありません。特典に近づくほど、次に来るまでの日数が縮んでいます。最初と最後の間隔の差は 0.7 日、率にすると 20% の加速でした。

カードが進むと、来店の速さはどう変わるか
  • 最初と最後の来店間隔の差: 0.7 日(20% の加速)
  • 実際にカードを使い切るまで: 24.6 日
  • 最初のペースのままなら: 29.4 日かかる計算
  • 差し引き: およそ 5 日(16%)短縮
  • 分析の対象: 使い切られたカード 949 枚・約 10,000 回の購買

この分析では、時間の経過による見かけの変化や客ごとの買うペースの違いを統計的に取り除いたうえで、この加速が確認されています。「もともとよく来る人が最後まで進んだだけ」という説明では片づかない、ということです。

再来店の理由を作るという意味では、予約の場で次回の約束を取る設計も同じ働きをします。予約時に何を渡すかは 「予約特典設計で再予約率24%→48% ── 無断キャンセル-38%・常連化につなぐ4階層」 にまとめています。カードは「次に来る理由」を客の手元に置き続ける道具です。

誰に配るか ── 常連は特典を取るが、来店回数は変わらない

ここからは「誰に配るか」の話です。マーケティングの国際学術誌に載った関連研究(2007 年)は、コンビニエンスストアのチェーンが始めたポイント制度を、無作為に抽出した 1,000 人・2 年間・42,788 回の購買で追いました。

店長
店長

常連さんに喜んでもらうために始めた制度なので、常連さんがいちばん恩恵を受けているならそれでいい気もしますが…。

先生
先生

そこは分けて考えたいところです。この研究では、もともと多く買っていた層は特典を最も多く受け取ったのに、来店頻度は開始時からほぼ変わりませんでした。期間の終わりで 5.68 回。統計的にも変化は認められていません。

層ごとに何が起きたか(コンビニ・1,000 人・2 年)
  • もともと多く買っていた層: 来店頻度は 5.68 回で開始時とほぼ同じ。変化なし
  • その層の特典の受け取り: 中位層の当初の受取率 32.22% に対し、25.42% 高い
  • 2 年後の受け取りの伸び: 中位層は 59.79% まで上昇したが、多く買う層の伸びはそれより遅かった
  • もともと来店が少なかった層: 来店頻度が 2 倍以上に増えた(期間終了時 3.73 回)
  • 中位の層: 少ない層と同じだけ増えた

整理すると、原資は最も多く使われるのに、行動はいちばん動かないのが常連層です。これは常連を軽んじる理由にはなりませんが、「カードで常連の来店を増やす」という期待は外したほうがよいという意味になります。

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では常連には何をするか

常連に効くのはカードではなく、関係そのものに働きかける打ち手です。離脱の予兆を先に拾う方法は 「常連客アンケート5問で離脱予兆検知+57% ── NPS不要の月次運用テンプレート」、常連から次の客を連れてきてもらう設計は 「紹介で来た客は生涯価値+16〜25%・離脱-18% ── 長期価値2倍と、紹介を頼む相手の選び方」 にまとめています。カードはまだ関係が薄い人のための道具だと考えてください。

来店が少ない客ほど動く ── 買う範囲まで広がる

同じ研究で、もともと来店が少なかった層には別の変化も起きていました。来店の回数だけでなく、買うものの範囲が広がったのです。

来店が少なかった層に起きたこと
  • 来店頻度: 2 倍以上に増えた(期間終了時 3.73 回)
  • 2 つの主要カテゴリの両方を買う人: 26% → 58%(+32 ポイント)
  • 両方を含む購買の割合: 20% → 40%(+20 ポイント)
  • 結果として: 1 回の購買額も上がった。値引きではなく、併せ買いが増えたことによる
先生
先生

ここは見落とされやすいところです。「たまにしか来ない人」は、来る回数が少ないだけでなく、買う範囲も狭いんです。カードをきっかけに来店が増えると、ついでに別のものも買うようになる。客単価は値引きではなく、この経路で上がっています。

この層をどう見分けるかは、多くの店で悩みどころです。レジで顔と名前が一致しない人、月に 1 回来るかどうかの人が、まさにこの層にあたります。「うちの常連ではない人」にこそ渡すという判断になります。

なお、来店が少ない層を動かすには、その前提として満足していることが必要です。満足度がどの水準を超えると再来店が変わるかは 「サロンの再来店が6倍変わる満足度の境目 ── 5段階の「4」では増えず、離反客の35%は戻せる」 にまとめています。不満のある客にカードを渡しても、進みません。

渡した直後が危ない ── 特典の後にペースが落ちる

カードを使い切ってもらえたら成功、ではありません。カフェの研究は、特典を受け取った直後に起きることまで追っています。

特典の前後で、来店の速さはどう動くか
  • 特典に近づく → 来店間隔が縮む(前章の 20% の加速)
  • 特典を受け取った直後 → ペースが落ちる
  • 次の特典に近づく → ふたたび加速する
  • 加速の度合いが大きい人ほど → その後も続けて利用し、次のカードに早く取りかかった
店長
店長

使い切ったカードを回収して、「ありがとうございました」で終わっていました。あそこが落ちるタイミングだったんですね。

先生
先生

そうなんです。使い切った瞬間は、次に来る理由がいったん消える瞬間でもあります。だからその場で次のカードを渡す。しかも新しいカードにも 2 個押した状態で渡してください。ここを空けると、間隔が元に戻ります。

もう一つ、加速する人ほど続くという発見には運用上の使い道があります。カードの進み方が急に鈍った人は、離れかけている可能性があるということです。スタンプの日付を見れば、間隔が空き始めたことに気づけます。

凝るほど効かなくなる ── 段階制と共通ポイントの落とし穴

ここまでの話は「単純なスタンプカード」を前提にしています。では、もっと凝った制度にすれば、もっと効くのか。市場調査の国際学術誌に載った関連研究(2020 年)が、この点を大規模に比べています。

欧州 27 か国・食品小売 358 系列を比べた結果
  • 直接すぐに戻ってくる単純な制度: 売場あたりの売上効率を高める効果があった
  • 段階が上がっていく複雑な制度: その効果が消えた
  • 複数の企業が共同で運営する制度: これも効果が消えた
  • 安売り業態が運営する場合: 効果が小さかった
  • 競合の多くが同じような制度を持つ市場: 効果が小さかった
先生
先生

「単純で、すぐ戻る」ほうが効くという結果です。紙のスタンプカードを時代遅れだと感じる必要はありません。むしろ条件を満たしている形なんです。

当サイトでは 「ポイントカード設計でリピート意向51%→68% ── 解約防止と3段階特典(5/10/15%)」 で段階のある特典を扱っています。この研究と矛盾するように見えますが、条件で分かれます。

段階制が効く条件・効かない条件
  • 効く: 客が自分の現在地を一目で把握でき、次の段階が手の届く距離にある
  • 効かない: 段階が多すぎて現在地が分からない/次の段階まで時間がかかりすぎる
  • スタンプカードの強み: 現在地が一目で分かる。この条件をもともと満たしている
  • 判断の目安: 客に「あと何回ですか」と聞いて即答できなければ、その制度は複雑すぎる

共通ポイントに乗ると効果が消える、という結果も同じ筋で読めます。どこで貯めてもよいポイントは、自店に来る理由になりません。自店のカードを持つ意味は、そこにあります。

明日から変えられる 5 つの設計

ここまでの 4 本の研究を、印刷と接客の言葉に落とします。いずれも追加の費用はほとんどかかりません。

① 必要な回数を先に決め、枠はそれに 2 個足す
  • 先に決めるのは「何回来てほしいか」。いまの来店間隔で 3 か月以内に届く回数に置く
  • 枠の数 = 必要な回数 + 2。刷るときに 2 個ぶん多くする
  • 渡すときに 2 個押す。これで必要な回数は変えずに、進んだ状態から始められる
  • 月に 1 回来る客なら 8 回で 8 か月。長すぎるなら回数を減らす
② 2 個押す理由を、渡すときに一言添える
  • 研究では理由を添えないと効きが弱まることが示されている
  • 言い方の例: 「本日のご来店ぶんと、はじめましてのぶんで 2 つお付けしています」
  • 「サービスです」だけでは足りない。なぜ 2 個なのかが伝わる形にする
  • 朝礼でこの一言だけ全員でそろえる。1 分で共有できる
③ 渡す相手を「常連ではない人」に寄せる
  • 来店頻度が動いたのはもともと少なかった層と中位の層
  • 常連は特典を最も多く取るが、来店回数は変わらない
  • 目安は「顔と名前が一致しない人」「月に 1 回来るかどうかの人」
  • 常連に渡すなとは言わない。常連の来店増を期待しないということ
④ 使い切ったその場で、次のカードを渡す
  • 特典を受け取った直後はペースが落ちるタイミング
  • 回収して終わりにせず、その場で新しいカードを渡す
  • 新しいカードにも 2 個押した状態で渡す
  • 「次はここからです」と、進んだ状態を見せながら渡す
⑤ スタンプに日付を入れ、間隔を見る
  • スタンプに日付が入るだけで、来店間隔が記録になる
  • 加速している人ほどその後も続くことが分かっている
  • 逆に間隔が急に空いた人は、離れかけている可能性がある
  • レジで前回の日付を見て一言添えるだけでも、観察になる

待ち時間の伝え方と同じで、これらはすべて「今あるものの見せ方を変える」打ち手です。設備投資をせずに効かせる考え方は 「待ち時間を見せると品質評価+22.2%・提供時間-19.2% ── 短くするより効く、長さ別の伝え方3段階」 でも扱っています。

30 日の導入手順 ── 刷る・配る・つなぐ

1〜10 日目 ── 刷る
  • ① 何回来てほしいかを決める: いまの来店間隔から逆算し、3 か月以内に届く回数にする
  • ② 枠をその回数 + 2 個で刷る: 既存のカードが余っていれば、使い切るまでは 2 個押して配る運用で先に始められる
  • ③ 現在地が一目で分かる形にする: 枠を 1 列か 2 列に並べる。ばらけた配置にしない
  • ④ スタンプに日付欄を作る: 小さくてよい。後で間隔を読むため
11〜20 日目 ── 配る
  • ⑤ 渡すときの一言をそろえる: 朝礼で 1 分。2 個押してある理由を全員が同じ言葉で言えるようにする
  • ⑥ 渡す相手を決める: 顔と名前が一致しない客を優先。常連への配布は数に数えない
  • ⑦ 押すのは 1 回の来店で 1 個まで: まとめ押しをすると、来店の回数を増やす仕組みが働かなくなる
  • ⑧ 配った枚数を数える: 日ごとに正の字でよい。分母がないと効果を測れない
21〜30 日目 ── つなぐ
  • ⑨ 使い切ったその場で次を渡す: 回収して終わりにしない。新しいカードにも 2 個押す
  • ⑩ 戻ってきた枚数を数える: 配った枚数のうち何枚が戻ったかが、この施策の成績
  • ⑪ 日付から間隔を読む: 間隔が空き始めた人に気づけるようにする
  • ⑫ 段階を増やしたくなったら止まる: 複雑にすると効果が消える。「あと何回ですか」に客が即答できるかで判断する

⑩ の数字が、この取り組みの成否をそのまま表します。配った枚数と戻った枚数の比を月ごとに並べれば、洗車店の実験と同じ指標を自店で持てます。19% と 34% の差は、この比の差です。

✎

参考研究・論点

  • ジョセフ・ヌネス、ザビエル・ドレーズ(2006 年発表) ── 洗車店でカード 300 枚を配った実験。必要な洗車が 8 回である点は同じまま、枠 8 個・押印ゼロでは 19%、枠 10 個・2 個押印済みでは 34% が使い切った。達成までの期間も短縮した
  • ラン・キベッツ、オレグ・アーミンスキー、ユーホァン・チェン(2006 年発表) ── カフェの制度で使い切られたカード 949 枚・約 10,000 回の購買を分析。特典に近づくほど来店間隔が 20%(0.7 日)縮み、実測 24.6 日に対し最初のペースなら 29.4 日だった。枠 12 個・2 個押印済みでは 10 回の達成が 11 週(中央値 8 週)で、枠 10 個の 16 週(中央値 12 週)より短かった。特典の直後には減速が見られた
  • ユーピン・リュウ(2007 年発表) ── コンビニのポイント制度を無作為抽出 1,000 人・2 年・42,788 回の購買で追跡。多く買う層の来店頻度は 5.68 回で変化なし。少ない層は 3.73 回へ 2 倍以上に増え、2 つの主要カテゴリの両方を買う人が 26% から 58% に増えた
  • ニック・ボンバイ、マルニック・デキンペ(2020 年発表) ── 欧州 27 か国・食品小売 358 系列。直接すぐ戻る単純な制度は売上効率を高めたが、段階が上がる複雑な制度や共同運営の制度では効果が消えた

まとめ

この記事のポイント
  • 必要な回数を変えずに枠を 2 個増やして先に押すと、使い切る人が 19% → 34%(+15 ポイント)に増えた
  • 別の店の実験でも、10 回の達成が 16 週 → 11 週(中央値 12 週 → 8 週)に縮んだ
  • 特典に近づくほど来店間隔が 20%(0.7 日)縮む。カードは記録用紙ではなく、間隔を動かす道具
  • 効果の源は「もらった分を無駄にしたくない」ではなく「もう始まっている」という認識
  • 2 個押す理由を添えないと効きが弱まる。渡すときの一言まで含めて設計する
  • 常連は特典を最も多く取るが、来店回数は変わらない(5.68 回で不変)
  • 動いたのはもともと来店が少なかった層。来店が 2 倍以上に増え、買う範囲も 26% → 58% に広がった
  • 特典を渡した直後にペースが落ちる。その場で次のカードを、やはり 2 個押して渡す
  • 段階が上がる複雑な制度・共通ポイントでは効果が消える。「あと何回ですか」に客が即答できるかで判断する
  • 成績は配った枚数のうち何枚が戻ったかで測る。スタンプの日付欄が来店間隔の記録になる

今週できることは 1 つだけです。いま配っているカードに、渡す瞬間 2 個押すこと。刷り直しを待つ必要はありません。そのとき「本日のご来店ぶんと、はじめましてのぶんです」と一言添えてください。必要な回数は 1 回も減らしていないのに、戻ってくる枚数が変わります。

※ 本記事の数値は、洗車店・カフェ・コンビニエンスストアという特定の業態で行われた研究によるものです。いずれも査読を経た国際学術誌に掲載されていますが、日本の店舗を対象にした調査ではなく、自店で同じ幅が出ることを保証するものではありません。19% → 34% は絶対差 15 ポイント(もとの水準に対しては相対でおよそ 8 割増し)です。「2 倍以上に増えた」のはもともと来店が少なかった層の話であり、全顧客の来店が 2 倍になるという意味ではありません。「来店間隔 -20%」は次に来るまでの日数が短くなるという意味で、来店回数が減ることではありません。自店では、配った枚数と戻ってきた枚数の比を月ごとに記録しながら確かめてください。

よくある質問

スタンプの枠は何個にすればいいですか?

「必要な回数」と「刷る枠の数」を分けて考えてください。洗車店で行われた関連研究(2006 年)では、必要な洗車が 8 回である点は変えずに、枠を 8 個にして押印ゼロで渡した場合と、枠を 10 個にして 2 個をあらかじめ押して渡した場合を比べました。使い切って特典に到達した人は 19% と 34% で、15 ポイントの差がつきました。

つまり決めるべきはまず「何回来てほしいか」で、枠の数はそれに 2 個を足した数にします。必要な回数そのものは、いまの来店間隔で 3 か月以内に届く範囲に置いてください。カフェで行われた別の関連研究(2006 年)では 10 回が使われており、達成までの中央値は 8 週でした。

2 個先に押すのは、実質的な値引きと同じではないですか?

違います。値引きは特典に必要な回数そのものを減らしますが、この方法は必要な回数を 1 回も減らしていません。洗車店の研究(2006 年)では、どちらの群も無料の洗車までに 8 回の洗車が必要でした。変えたのは「ゼロから始める」を「もう始まっている」に置き換えた点だけです。

研究では、効果の源が「もらった 2 個を無駄にしたくない」という気持ちではなく、進んでいるという認識そのものにあることも確かめられています。ただし同じ研究は、なぜ 2 個押してあるのかの説明の仕方が効き方を左右することも報告しています。理由を添えずに配ると効きが弱まります。

常連のお客様にこそ配るべきではないですか?

常連に配ること自体は問題ありませんが、それで来店が増えると期待しないでください。コンビニエンスストアのポイント制度を無作為抽出した 1,000 人・2 年・42,788 回の購買で追った関連研究(2007 年)では、もともと多く買っていた層の来店頻度は期間の終わりでも 5.68 回で、開始時からほぼ変わりませんでした。統計的にも変化は認められていません。

一方でこの層は特典を最も多く受け取っており、中位層の当初の受取率 32.22% に対して 25.42% 高い水準でした。つまり原資は最も多く使われるのに、行動は動きません。来店頻度を動かしたいなら、来店が少ない層と中位の層に配ってください。

カードを使い切ったお客様には、その場で次のカードを渡すべきですか?

渡してください。カフェのポイント制度を分析した関連研究(2006 年)では、会員は報酬を受け取った直後にペースを落とし、次の報酬に近づくにつれて再び加速していました。使い切った瞬間は、来店の理由がいったん消える瞬間でもあります。ここで次のカードを渡さないと、次に来るまでの間隔が空きます。渡すときは新しいカードにも 2 個押した状態にしてください。

もう一つ、同じ研究では加速の度合いが大きい人ほどその後も続けて利用し、次のカードに早く取りかかったことが示されています。カードの進み具合は、離脱の予兆を見る材料にもなります。

アプリやランク制にしたほうが効果は上がりますか?

必ずしも上がりません。欧州 27 か国・食品小売 358 系列を調べた関連研究(2020 年)では、直接すぐに戻ってくる単純な制度に売上効率を高める効果が認められた一方で、その効果は段階が上がっていく複雑な制度にすると消え、複数の企業が共同で運営する制度でも消えていました。競合の多くが同じような制度を持つ市場でも効果は小さくなっています。

凝った設計が必ず良いわけではありません。段階制を採るなら、客が自分の現在地を一目で把握でき、次の段階が手の届く距離にあることが条件になります。スタンプカードは現在地が一目で分かるという点で、この条件をもともと満たしています。

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